ビジネスデータ分析を効果的に行うには、「仮説立案」や「検証」といった分析手法の理解が不可欠である。今回は、分析手法の基本を解説する。業務部門がデータ分析を手掛ける際に、情報システム部門が実施すべき支援策も紹介する。

 営業部門や販売部門の担当者一人ひとりがビジネスデータ分析を実行するには、基本となる“コツ”を共有する必要がある。今回は、「データ分析の三原則」「データ分析と統計学の違い」「動向分析・要因分析・検証分析」といった分析手法の基本を説明しよう。

データ分析の三原則を理解する

 データ分析は、3つの基本原則から成る。(1)データを比較する、(2)時系列に並べる、(3)詳細データで要因をつかむ、である。

 データは比較して初めて、個々の数字の良しあしが分かる。例えば、「予算と実績」「自社の売り上げと他社(もしくは業界)の売り上げ」の比較などだ。データを比較しなければ、個々の数字が持つ意味を評価できない。

 時系列にデータの推移を見ることによって、将来の姿を推測することができる。過去を知る者だけが未来を見すえられる。データは必ず時系列の観点で“流れ”としてとらえたい。

 「詳細データで要因をつかむ」とは、集計済みデータに頼ってはいけないという意味だ。集計済みデータは、傾向や課題を端的に理解するのに役立つ。しかし、傾向や課題の要因は、詳細データをつぶさに分析して初めて見つけることができる。

ビジネスデータ分析と統計学の違い

 データ分析といえば、統計学を利用した分析を思い浮かべる人もいるだろう。しかし、ビジネスデータ分析と統計学を利用した分析は、目的も手法も異なる(表1)。両者の特徴を理解して、上手に使い分けることが大切だ。

表1●ビジネスデータ分析と統計学の違い
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表1●ビジネスデータ分析と統計学の違い

 ビジネスデータ分析は、ITが進歩し、大量データの収集と加工が可能になったことによって誕生した。そのため、ビジネスデータ分析には必ずITを利用する。誰でも気軽に実践できる点が統計学を利用した分析と異なる。

 統計学は、少ないサンプル・データを統計的な手法で分析し、傾向や予測を立てたりする際に利用する。大量のデータを収集、処理できなかった時代に生まれたものだ。使いこなすには専門的な知識が必要なため、一部のスペシャリストなどが活用するにとどまっていた。

 ただしビジネスデータ分析は、ここ十数年で始められたものであり、その考え方や手法が日々進化している。学問として確立しておらず、大学や企業でしっかり学ぶ機会が少なかった。それが、多くの業務部門でビジネスデータ分析の活用が進んでいない要因の1つと思われる。

5段階で進める

 ビジネスデータ分析の基本的なやり方を説明しよう。ビジネスデータ分析は、「仮説立案」「動向分析」「要因分析」「検証分析」「対策実施」の5つの段階で構成されている(図1)。これらを必要に応じて繰り返し行う。

図1●ビジネスデータ分析の基本的な進め方
図1●ビジネスデータ分析の基本的な進め方
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 まず、一番大切なのが「仮説立案」である。仮説は、業務部門など現場の経験を基に立てる場合と、各種データや資料を基に立てる場合とがある。この仮説を検証するのがビジネスデータ分析の一番の目的である。

 日常の活動や資料などからつかんだ「アラーム情報」を、大量データを基に素早く検証するのが「動向分析」である。各種データを比較したり、時系列に並べたり、内訳を調べたりして、先の仮説をデータ面で裏付ける。条件付けで絞り込む「スライス分析」や、表やグラフの項目を自由に入れ替える「ダイス分析」といった手法を用いて多角的に分析する。

 「要因分析」は、動向分析で発見した問題や課題の要因を探るために実施する。詳細データを大分類に集計し、次に中分類に、そして小分類に集計する「ドリルダウン手法」を用いる。ドリルダウン手法で役立つのがグラフである。数字では分かりにくい要因も、グラフで“見える化”して比較すれば見つけやすい。

 要因分析で洗い出した要因群が、本当の要因なのかどうか、あるいは別の要因があるのではないかと、色々な角度から確かめるのが「検証分析」である。検証は、要因分析で行ったドリルダウン分析を逆方向にさかのぼるように実施する「ドリルアップ分析」によって行う。

 検証分析は、犯人探しでいうところの“証拠固め”に似ている。動向分析で事件を“顕在化”し、要因分析で犯人に目星を付ける。目星が付いてもすぐに逮捕せず、裁判で有罪を勝ち取れるよう“証拠固め”をする。この作業が検証分析である。