営業・販売など現場の担当者一人ひとりが、直面した課題ごとにビジネスデータを分析し、分析結果を次のアクションに生かしてこそ、最大限の成果が得られる。「ビジネスデータ分析」の考え方と情報システム部門の役割について解説する。

 「店舗のPOSデータをお渡しします。これを参考にして、来週までに販売キャンペーンの提案をしてください」。中堅スーパーA社の仕入れ担当者はこう言って、食品メーカーの営業担当者にPOSデータを記録したCD-Rを手渡した。CD-Rを手にした営業担当者は、「POSデータの分析なんて1人では到底できない。どうすればいいんだ!」と頭を抱えた──。

 中堅スーパーA社は、数万から数十万件になる前週のPOSデータを自社で分析する一方、各メーカーや卸売業の営業担当者に積極的に開示している。メーカーや卸売業に、競合他社の販売動向などを踏まえた上で、販売促進策やキャンペーンの提案をしてもらうためだ。データ分析に基づく提案こそが、いまや商談の中心となっている。

 メーカーや問屋業者とって、最終顧客である消費者の購買データは本来、のどから手が出るほど欲しい情報である。しかし、「メーカーや卸売業の営業担当者の多くは、POSデータを詳細に分析する能力を持ち合わせていない」と、スーパーA社の仕入れ担当者は打ち明ける。POSデータを分析する能力さえあれば、具体的でかつ、効果のある拡販策を提案できるにもかかわらずである。

 その重要性に気がついた一部の食品メーカーや飲料メーカーは、営業担当者一人ひとりのデータ分析力を強化しようと社員研修に着手している。そうした研修を受けたあるメーカーの営業担当者は言う。「データ分析は武装化だ!、プレゼンテーションは戦争だ!」と。営業の現場は、データの分析力やそれを駆使したプレゼンテーション力の必要性を痛感しているのだ。

分析の“コツ”を共有する

 一人ひとりの社員が大量のデータを利用してビジネスデータ分析を行い、ビジネス力をアップさせるにはどうすればよいか。その1つの答えが「コツを共有すること」である。「コツ」という言葉は、漢字で書くと「骨」となる。辞書で「骨」を調べると、「物事をくみたてる芯になるもの。要点。骨髄・骨子・真骨頂・鉄骨・木骨」(岩波国語辞典)とある。

 コツとは、物事の骨子であり、基本となる要点である。物事の基本体系や基本理論と解釈してもよい。つまり、このコツ、言い換えればビジネスデータ分析の考え方や分析手法、取り組み方法という基本的な知識や理論が、いまだビジネス現場に普及していない。これが実情なのだ。

 振り返れば、データ・ウエアハウス(DWH)が登場したのは、ここ十数年のことである。いまだ学問として体系化されていないため、大学ではもちろん、会社に入ってからもデータ分析についてしっかり教えてもらった経験を持つ人はほとんどいないはずだ。さらに言えば、「表とは何か」「グラフとは何か」を、しっかり学んだことがある方も少ないだろう。

 現場の担当者の多くは、ビジネスデータ分析を自分の経験に基づき、自己流に解釈して行ってきた。ビジネスデータ分析が一部の「できる人」の得意技になっているのは、基本的な知識や理論が普及していなかったことが要因である。この基本的なデータ分析の知識(コツ)を組織的に共有して、社内の文化として根付かせることが重要だ。そのためには、表1に示したような基本的な知識や手法の理解が不可欠である。個々の詳しい内容については、次回以降に説明したい。

表1●ビジネスデータ分析に必要となる基本的な知識や手法の例
表1●ビジネスデータ分析に必要となる基本的な知識や手法の例