広森 順子
After J-SOX研究会 運営委員
富士ゼロックス 営業本部 オフィスソリューション営業部 ERMソリューション企画推進グループ


 今回は「レピュテーション(評判)」にかかわるリスクマネジメントについて考えたい。企業がERM(エンタープライズ・リスクマネジメント)に取り組むうえで、顧客や最終消費者のレピュテーションは見逃せないリスクである。いったん悪化したレピュテーションを立て直すのが難しいことは、最近続発している企業不祥事の顛末を見ても明らかだろう。

 レピュテーションの向上を通じて企業価値を高めるために、欠かせない手段の1つとして記録管理がある。業務上発生する様々な情報を単に文書として記録するのではなく、運用の仕組みとITツールを組み合わせ、業務プロセスとそこで発生する記録類を全社的に統合管理する“記録管理基盤”を構築することが重要である。

記録管理(レコードマネジメント)の重要性

 ある調査によると、株主価値向上を重視する米国の経営者と違い、日本の経営者の8~9割は「ステークホルダー(利害関係者)の中で顧客や最終消費者が最も大事」だと考えている。そのような企業にとっては、顧客や最終消費者に対して自社の製品・サービスが安全であること、および、それらを提供するプロセスが安全であることを証明・保証し、自社の製品・サービスを支持してもらえるようにすることが、企業価値を高めるうえで非常に重要となる。

 ところが、最近頻発する企業不祥事や製品事故などの事件・事故をみると、リスク発生後に十分な説明責任を果たすことができず、経営陣の対応が後手にまわったために顧客や最終消費者からの批判が集中し、企業ブランドが大きく傷つき、事業の継続が困難な状況に陥るケースが少なくない。

 対応が後手にまわる要因の1つに「リスク発生時に、経営者が即座に必要な情報を収集できず、したがって正確な情報を把握することができない」という状況がある。そのため、思い込みによるリスクの過小評価がなされ、新たな情報が次々に明らかになるたびに前回の発表内容を訂正し続けることになる。その結果として、企業の対応や姿勢に対する批判が高まっていくという、企業にとって最も恐ろしいレピュテーション・リスク(悪評)の拡大や膨大な追加損失を招いてしまう(図11-1)。

図11-1●有事対応とレピュテーション
図11-1●有事対応とレピュテーション
記録を根拠に説明責任を果たすことが重要

 このように、リスクマネジメントの観点で重要な情報の管理が適切に行われているかどうかは、レピュテーション・リスクを大きく左右する結果となる。なかでも、業務処理結果や法的義務履行の結果としての証拠性を持つ情報である「記録(レコード)」は、企業が説明責任を果たすための最も有効なファクターとなる。

 代表的な記録の例としては、設備点検記録、出荷検査記録、クレーム情報とその対応記録、契約情報、議事録、行政への各種届出資料などがある。参考までに、記録類を含む情報の管理が不十分であったために、リスク発生時に問題が生じたケースを以下に示す(図11-2)。

図11-2●事件・事故の例と、文書管理・記録管理上の問題点
事件・事故の例 文書管理・記録管理上の問題点
消費期限切れの原料を使った食品製造 ●商品出荷時の点検マニュアルを含め、安全管理体制がどのように整備され、運用されていたかを説明できない
●詳しい製造記録や出荷記録が残っていないため、影響範囲を明確に説明できない
多発する製品事故 ●過去の事故情報を蓄積・分析しておらず、未然防止につなげていない
●事故発生時に過去の事故対応記録を確認できず、迅速に対応できない
環境測定値の虚偽記録・報告 ●測定結果を報告する際に、報告する測定値のデータを、原簿(測定結果記録)とつき合わせて確認していない