経済産業省が準備を進めている国内CDM(クリーン開発メカニズム)制度。実際の運用は始まっていないが、一足先に民間主導でこの仕組みを導入し、グループ間で効率的な温暖化対策を進める例が出てきた。

 京都議定書が規定するCDMは、先進国が途上国に技術移転しながら省エネ対策などを実施し、そこで削減した温暖化ガスを排出枠(CER)として獲得する仕組みだ。先進国は獲得した排出枠を京都議定書の削減目標の達成に使える。

 国内CDMとは、これを国内の大企業と中小企業の間で実施するもの。大企業の持つ省エネ技術を中小企業に公開して共同で対策を実行し、CO2削減量を排出枠として登録、大企業の削減分として認める制度だ。

 今回は、山武と同社の連結子会社でプリント基板の組み立てなどを手掛ける太信(長野県中野市)との間で、昨年8月から今年1月までの半年間で実施した。仕組みはこうだ。

図●民間主導の国内版CDMの仕組み
図●民間主導の国内版CDMの仕組み

 昨年7月に山武の社員が太信を訪問して可能な省エネ対策を洗い出し、8月から対策を実施。並行して削減量の基準(ベースライン)の決め方について両社で協議して決定した。1月までの半年間の削減量について、第三者認証機関としてJACOCDM(東京都港区)に認証を依頼。国産排出枠の仕組みを提唱している日本環境取引機構(東京都渋谷区)が削減分23tを、排出枠として登録した。

運用改善だけで大きな成果

 CO2排出量の計測方法、削減量の確定や認証方法などは、環境省が実施している自主参加型排出量取引制度(JVETS)の手法を参考にした。

 山武は、今後この23tの排出枠を現在の排出枠価格の相場である1t当たり約2000円で購入する方針だ。太信は、省エネ技術の提案を受けたうえ、排出枠の売却益を受け取ることになる。現在、日本では企業ごとに排出枠の上限(キャップ)がないため、山武にとって今回の排出枠の購入は、CSR(企業の社会的責任)の一環としての位置付けになる。

 国内CDMによって排出枠が生まれる仕組みは、対策を実行しなかった場合の排出量をベースラインとして決めておき、それを基準に削減量を算出する。今回のベースラインは、前年の排出量を基本にし、生産量に大幅な増減があった場合は、あらかじめ決めた作業工数当たりの排出量の係数で補正するという方式にした。

 「今回は試行の意味もあり、投資を伴う対策はせず、運用改善だけだった。それでも半年で23t、年間では50t近く減りそうだ。年間920tを排出する太信にとっては大きな成果だ」と、このプロジェクトを主導した山武の福田一成氏は言う。

 こうした民間主導の自主的な排出枠をVER(自主的な排出枠)と言う。日本環境取引機構はVERの取引を通じて、大企業から中小企業への省エネ技術の移転を目指してきた。山武と太信の取り組みは、その初めての実際的な事例である。

 4月18日、経産省は国内CDM制度の普及を目指し、発起人会を開いた。今後、国の制度のなかで民間主導の仕組みをどのように評価し、位置付けていくのか議論になりそうだ。