Global Innovation Outlook - Security and Society」より
May 28,2008 Posted by Gunter Ollmann

 2008年5月の数週間,米IBMのイノベーションに関する国際的な取り組み「グローバル・イノベーション・アウトルック(GIO)」の一環として,東京と台湾の台北で開催されたセッションに参加した。GIOを知らない読者のために説明すると,GIOはIBMが2004年から毎年実施しているプログラムで,技術や経営に関する情勢予測を世界的な規模で行う。

 基本的には,IBMが世界中の業界関係者や技術的権威とともに,「ディープ・ダイブ」という名の下,非常に大まかな議題(筆者が出席した東京と台北のセッションでは,議題が最初の数時間でうやむやになってしまった)で自由に話し合いが進められる。世界各地で開催されるディープ・ダイブは,終了後に成果をまとめて公開する。

 GIOのWebサイトでは,前年度の調査報告書がダウンロードできる。

 今年度のテーマは「セキュリティと社会」「水と海」の二つだった。筆者がどちらのテーマに参加したかは,言わずもがなだ。

 「セキュリティと社会」の中心テーマは,「相互依存型の国際社会において,セキュリティの本質が変化している影響で組織および個人が直面する課題」が提案された。GIOのWebサイトでは,以下のように示されている。


21世紀がもたらしたのは,セキュリティという考えのほぼ完全な再定義だ。身元詐称,国境間のセキュリティ,企業スパイなど,国家/企業/組織/個人のセキュリティが,高度な技術と世界的な相互依存度の高まりにより,例外なく絶えず不安定な状態にある。大企業と小企業の双方,さらに個人でさえ,その規模やリソースと不釣り合いなほど強力な破壊力を持ち,セキュリティのあらゆる面を脅かしている。同時に,技術のおかげで,盗難などのセキュリティ侵害が想像もしなかった新しい方法で検出/防止できるようになってきた。


企業は,物理的あるいはデジタル的な資産,そして顧客の利益を保護するために,革新的な方法を模索している。政策立案者は,社会経済の成長とセキュリティ脅威の緩和の両立に悩まされている。また,目まぐるしい発展と混乱の深まる世界のセキュリティ環境において,自分自身と資産を守ることが我々一人ひとりに求められている。

GIOに関する筆者の見解

 両セッションにおけるディープ・ダイブと一連のディスカッションは非常に楽しいものだった。複数の開催地で参加者が混然一体となり,「セキュリティと社会」という非常に幅広いトピックについてユニークな見解を引き出していく様子は,見ていて非常に興味深かった。

 両セッションで一貫していたテーマの一つが,インターネットのセキュリティについて,プライバシーと社会の両方を保護することを目的とする法規制/施行に対する政府の役割だった。結果的に,政府が今後インセンティブのあるプラットフォーム(アメとムチの両方)をどのように展開していけるかの議論と,参加者の国々における成功(失敗)事例の検討にかなりの時間が費やされた。ただし,参加者全員にとって明らかだったのは,複数の国境を越えて,犯罪者が詐欺行為や不法行為を行えるネットワーク化された社会では,政策の合意とその管理/施行は,今後非常に飛び越えにくいハードルになるという点だ。このとき,ほぼ全員が同意したのは,今後の法規制や協調体制に対する政府の要件把握は不十分で,逆効果になる受け身の対策を回避するためには,多くの教育が必要であるということだった。

 我々は上記の点を踏まえて,オンライン・コミュニティが特定の状況下でどのように効率的な自己規制をしているか,これまでの実例をもとに話し合った。具体例を挙げれば,気に入らない参加者を攻撃するフレーム行為,浄化が困難なPtoPネットワーク,オンライン・オークションの出品者評価,多人数同時参加型オンライン・ロール・プレイング・ゲーム(MMORPG:Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)の集団行動などが話題になった。ただし,コミュニティでの対処と集団でのルールは紙一重であることも心に留めておかなければならない。