米Microsoftは,欧州連合(EU)からいつ終わるともしれない非難を受け,次第に根拠を失いつつある調査の対象とされている。ところが,米国の独占禁止法(独禁法)取り締まり当局は正反対の態度を示し,意外なほど強力にMicrosoftを支持している。

 先ごろ米連邦政府と関係各州の独禁法機関は,2002年の独禁法違反判決にともなって行われてきた定例報告で,サード・パーティ向け技術ライセンス料を下げようとするMicrosoftの取り組みを評価したのだ。米司法省(DOJ)と複数の担当者は,共同提出した報告書で「ライセンス料の大幅な引き下げは,『Windows』クライアントとの相互接続性の促進につながる」と記した。

 Microsoftは2008年2月,重要な通信プロトコルと,Windowsや「Office」「SQL Server」「Exchange Server」「SharePoint Server」といった製品にかかわる数千ページにおよぶ技術文書を提供すると発表し,第一弾として4月に1万4000ページ分をリリースした(関連記事:Microsoft,主要ソフトウエアの情報を開発者に公開)。この技術文書は,無償かつロイヤルティ・フリーで閲覧できる。

 さらに,同社は自社特許で保護しているプロトコルの情報についても,「合理的かつ差別のない(RAND)条件を適用し,安価なライセンス料」で提供した。それだけでなく,オープンソース団体が特許対象プロトコルを実装しても,非商用目的であれば提訴しないという方針まで示した。

 2002年の独禁法違反判決以降,Microsoftの動きを監視してきた技術委員会は,デスクトップ向けOSの次期メジャー・アップグレードに相当する「Windows 7」(開発コード名)のベータ版を調査している。この委員会は,「Windows Vista」でも同様の調査を行った。

 米国におけるMicrosoftと独禁法当局の現在の関係は,解決までに何年もかかったことや,同社と欧州の独禁法当局との関係と対比させてみると,非常に興味深い。米国では事態に進展があったし,両陣営は協力できている。Microsoftが適切な対応をとれば,きちんとそれを評価する。

 一方,EUの執行機関である欧州委員会(EC)と独禁法担当委員のNeelie Kroes氏は,こうした心配りができないらしい。例えば,Kroes氏は,Microsoftが5月に自社の文書フォーマット仕様を国際的な標準規格として公開すると決定したことに対し,この文書フォーマットが反競争的かどうか調査したうえで認めたのだ(関連記事:欧州委員会,「Office 2007のODF対応は歓迎するも,効果検証の手は緩めない」)。そのうえKroes氏は,EU政府にMicrosoft製品の採用を見送ってオープンソース・ソフトウエアを使うよう提言した。

 Kroes氏は,Microsoftのライバル企業に同情し過ぎているところもある。特に,欧州の企業には同情が強くなる。おそらく,どんなに些細な訴えでも大がかりな捜査を実行できるのだろう。

 わかりやすい例を紹介する。現在ECは,MicrosoftがWindowsに「Internet Explorer(IE)」バンドルしている件を調査中だ。これは,ノルウェーのWebブラウザ・メーカーであるOpera Softwareが「(バンドルで)当社の事業が妨げられた」と申し立てたからである(関連記事:欧州委員会,反競争法の疑いでMicrosoftに対して新たに2件の調査)。

 ただし,Operaは,米Mozillaの「Firefox」と米Appleの「Safari」という別のWebブラウザが,問題とする同じ期間にノルウェーでOpera製Webブラウザより大きな市場シェアを獲得した理由について,説明することができない。これまでの例に従うなら,Kroes氏と取り巻き連中は不都合な真実を無視し,新たに必要のない告発をして法廷闘争に持ち込み,制裁金を科すだろう。