さらに課題となるのが、見積もりの精緻化だ。工事契約に関する会計基準では、成果の確実性を認める条件として「プロジェクトの『原価』と『収益』、『進捗』を信頼性をもって見積もれること」としている。

 特に難しいのが売り上げを決める『進捗』の把握だ。実態と進捗度がずれて赤字案件になると、損失の見積もり額を工事損失引当金として計上しなければならない。

 アンケートでは進捗の把握にどのような方法を採用するかを尋ねた。その結果「原価比例法」を採用すると回答したベンダーが、予定を含め25社以上あった。これは全体の6割強に当たる。このほか「EVM(アーンド・バリュー・マネジメント)」との回答が6社、「未定」を含む「検討中」と回答したのは6社だった(図2)。

図2●「工事進行基準を適用する」ITベンダーが進捗の見積もりに使う手法
図2●「工事進行基準を適用する」ITベンダーが進捗の見積もりに使う手法
6割以上が原価比例法を採用または採用予定

 原価比例法はプロジェクト開始時に原価総額を見積もり、実際にかかった原価から進捗度を把握する代表的な方法だ。工事契約に関する会計基準にも挙げられている。

 一方のEVMはプロジェクト管理手法の一つ。プロジェクト全体を細かい作業に分割した後に出来高を予測し、進捗も細かい単位で把握する。手間はかかるがその分見積もり精度が高くなり、プロジェクト管理の強化につながる。

 EVMを採用または採用予定としているのはカテナ、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)、日本システムウエア、日本ユニシス、富士通エフサス。

 ほかにも興味を示すベンダーがある。日本電子計算は「プロジェクトの管理方法は未定だがEVMを前提として一部のプロジェクトで適用し、検討中」と回答した。

 ただし工事契約に関する会計基準にはEVMについて言及がない。そのため、「工事契約に関する会計基準が求める見積もりの要件を満たしているか、会計監査人に確認する予定」(KCCS)といった回答もあった。

プロジェクト管理の強化に動く

 工事進行基準は、適用して終わりというわけではない。適用ベンダーに今後強化する施策を尋ねたところ、「プロジェクト管理体制の強化」を挙げた企業が25社あった。契約の分割や契約形態の見直しなど契約関連の変更を挙げたところも多い(図3)。

図3●工事進行基準を適用するベンダーの強化策
図3●工事進行基準を適用するベンダーの強化策

 プロジェクト管理体制の強化に乗り出すのは前述のように、原価や進捗の把握精度を向上するためだ。ただ、新たなプロジェクト管理体制を作るのではなく、「これまでのプロジェクト管理の取り組みを強化していく」とする企業が多かった。

 KCCSは「基本的には従来行っているプロジェクト管理を活用・強化することで工事収益と工事原価を認識できると考えている」とした上で「これまで以上に工数・原価を意識し管理する能力が、現場のプロジェクトリーダーに必要になるだろう」とみる。

 JFEシステムズは「プロジェクト管理は今も厳密にやっている。だが問題発生後の対処が遅れることが多い。全社で対処することを徹底すべきだ」と課題を挙げる。ユーフィットは原価算定の信頼性や客観性確保、根拠の明確化のために「原価管理を強化、社内規定の作成や見直し、定着が課題」としている。

 ベンダーのプロジェクト管理強化は、ユーザー企業にとって朗報である。品質の向上や納期の順守につながるからだ。だが同時に、ユーザー企業の発注能力を問われることにもなる(106ページに関連記事)。

 07年度から工事進行基準を適用している富士通エフサスは「プロジェクト管理の強化が、不採算商談の早期発見や受注自粛につながっている」としている。工事進行基準の適用企業では、ユーザー企業のムリな発注などを受けてもらえなくなる可能性が高い。