ブラザー工業のCIOである小池幸文・取締役常務執行役員 |
「経営環境や業務プロセスの変化に対応するには、システムを作り込むのではなく、人の側が柔軟に対応することも必要だ」。こう語るのはブラザー工業のCIO(最高情報責任者)の小池幸文(こうぶん)取締役常務執行役員だ。
ブラザー工業はERP(統合基幹業務)パッケージの導入を柱にIT活用を推進して、これまで成果を上げてきた。財務・会計やSCM(サプライチェーン・マネジメント)、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)など多くの業務分野で独SAPのERPパッケージを活用している。小池氏は90年代後半から、ERPのグローバル展開を主導してきた。「最近は、SOA(サービス指向アーキテクチャー)をベースにシステムを構築するほうが、ERPパッケージのような大型パッケージを使うよりも柔軟に業務プロセスの変化に対応できてよいという考え方もあるが、SOAはまだコンセプトレベルにすぎない」。なるべく幅広い業務にERPパッケージを適用し、柔軟性は人間のスキルや知恵で確保しようというのがブラザーの考え方だ。
2008年で創業100周年を迎えるブラザーは、現在はFAX・プリンターなどを一体化したデジタル複合機が主力製品になっている。家庭向け製品の比率が高く価格競争が激しいが、2008年3月期は売上高・営業利益ともに過去最高を更新し、売上高営業利益率は9.4%に上る。高い利益率は、ERP導入などを通じて在庫調整能力を高めてきた成果だ。ERPに入力される機種別の販売動向や在庫などの数値と、生産計画との乖離を見ながら週次で生産計画を見直している。2005年ごろから取り組んでいるが、「当初は急に在庫が足りなくなるといったケースもあったが、現場と調整しながら業務プロセスの改良を重ね、最近になってようやく管理レベルが上がってきた」と言う。
「品質コスト」の数値を月次で集計し、この削減にも取り組む。当初は、不良品や返品などによる直接的なコストだけを計上していたが、3年前ごろからアフターサービス費用なども品質コストに含めて管理するようにした。「アフターサービス窓口に電話がかかってくるのは、お客様が満足できる品質ではないということ」。品質コストの可視化を通じて電話で問い合わせなくて済むような分かりやすい取扱説明書作りなど、各部門の改善を促している。
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