ソフトバンク・グループは2008年5月,社員を対象とした超小型基地局「フェムトセル」のフィールド実験を開始した。6月からは地方都市で一般のユーザーを対象にフィールド実験を展開する計画だ。実はその裏で“ソフトバンク版NGN”といえる携帯コア網のオールIP化が進行している。狙いは携帯インフラのコストを大幅に抑えることだ。

 ソフトバンク・グループは,今秋にもフェムトセルの商用サービスを開始する計画である。総務省が予定する制度改正によって,ユーザー自身のフェムトセル設置が可能になるからだ。

 同グループはフェムトセルをきっかけに,携帯コア網の低コスト化を実現しようとしている。フェムトセルを収容するバックボーン側の携帯コア網として,オールIPのネットワーク構築を進めているのだ(図1)。ソフトバンクモバイルの宮川潤一取締役専務執行役C T Oはその理由について,「以前ADSLサービスを提供する際,バックボーンのIP化によってケタ違いにコストを抑えられた。同じように携帯コア網のオールIP化によって,コストを大幅に抑えられる」と説明する。

図1●フェムトセル用に“ソフトバンク版NGN”を新規構築中
図1●フェムトセル用に“ソフトバンク版NGN”を新規構築中
IMSによるコア・ネットワークをフェムトセル向けに用意し,5月から社員宅などでトライアルを開始した。ただしIMSで既存の携帯電話サービスをすべて再現することが難しく,苦戦している様子だ。
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IMSでフェムトセルを制御

 コア網のオールIP化によって,フェムトセル経由の音声通話はVoIP(voice over IP)となり,全体の呼制御はIMS(IP multimedia subsystem)で実施する。この点から言えば,フェムトセル導入に合わせて“ソフトバンク版NGN”を展開することになる。

 もっとも,携帯電話サービスをすべてIMSで制御している事業者は,世界的に見てもまだ存在しない。プッシュ・ツー・トークなど一部のサービスはIMSで制御されてはいるものの,既存の携帯電話サービスの機能をすべて再現するのは時期尚早のようだ。実際,宮川CTOも,「実サービスにIMSを使うのは正直難しい。まだ時期が早いのかもしれない」と打ち明ける。

 こうした状況の中,6月から一般ユーザーを含むフィールド実験を展開する。IMSで制御するのはフェムトセル経由の通信だけとはいえ,「一般ユーザーが参加するので,迷惑をかけるわけにはいかない。そのためIMSを利用しない方式も“保険”として準備している」(宮川CTO)。IP網を経由して,既存の携帯網にフェムトセルを収容する形も並行して進めているという。同グループは秋の商用サービス開始直前まで,フェムトセルによる携帯電話サービスをIMSで制御するか,既存網に収容するか,実験を通して検討する考えだ。

3.9Gのためのノウハウ作りも

 現段階では採用時期が定まらないIMSだが,今IMSを経験しておけば将来的に必ず役立つとの狙いもある。「2010年以降には3.9世代(3.9G)の携帯電話システムであるLTE(longterm evolution)の実用化が始まる。3.9GのシステムではオールIPのコア網が前提でIMSで制御することを考えている。今から経験を重ねれば将来に向けてノウハウがたまる」(宮川CTO)。

 100Mビット/秒以上の伝送速度を実現する3.9Gによって,携帯網内のトラフィックは爆発的に増えると予想される。「100倍トラフィックが増えたからといって,ユーザーに100倍お金をくださいとは言えない。これからは相当冒険的な取り組みを進めないと,将来予想されるトラフィックを収容しきれなくなる」(宮川CTO)。

 ソフトバンク・グループのフェムトセルの取り組みは,将来の携帯網を支える屋台骨としても,重要な位置付けになりつつある。