“焦土作戦”とはいささか極端だが、これはインターネットビジネスをウオッチする有力ブログ、米TechCrunchが米ヤフーを評した表現である。
 
 米マイクロソフトの買収提案に対抗して、ヤフーが米グーグルと広告事業で実験的に協業すると発表した際、TechCrunch責任者のマイケル・アーリントン氏はヤフーの行為を「自分の鼻をナイフで切ると称すべきか、焦土作戦と呼ぶべきか」と評した(「ヤフーは焦土作戦に向かう気か」参照)。それでもヤフーの作戦は一応功を奏し、マイクロソフトは5月3日、ヤフー買収を断念すると発表した。

 買収断念後のヤフーの株価推移やヤフー株主の反応によって、マイクロソフトがもう一度ヤフーの買収に乗り出す可能性が残っている。ヤフーのジェリー・ヤンCEO(最高経営責任者)自身が5月6日、英フィナンシャル・タイムズに対し、「マイクロソフトとの交渉再開を拒否するつもりはない」と述べている(「ヤフーCEO、マイクロソフトとの買収交渉再開に意欲」)。

 本稿においては、これからどうなるかを探るのではなく、企業買収のケーススタディーとして本件をとらえ、5月3日の断念理由から学べる点を抽出してみたい。情報源は、マイクロソフトやヤフーの発表資料、米国のブログやニュースサイトである。

 両社は買収価格を巡って折り合いをつけられなかったが、マイクロソフトが委任状争奪など敵対的手段に訴えなかった最大の理由はヤフーの“焦土作戦”にあった。マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは買収断念に際し、ヤフーのジェリー・ヤンCEOに書簡を送り、その中で「あなた(ヤン氏)と話し合ったことから考え、このまま当社が買収に突き進んだ場合、あなたがヤフーを望ましくない状態にするという結論に達した」と述べた。望ましくない状態とは、ヤフーが広告事業のライバルであるグーグルと提携してしまうことを指す。

 バルマーCEOは書簡の中で、「広告主に対し、ヤフーの検索広告システムではなく、グーグルのそれを使うように仕向けることは、ヤフーの存続可能性を根本的に脅かす」と述べ、ヤフーの広告ビジネスにとってマイナスだと指摘した。さらにグーグルの広告システムを使うことにより、「広告システムを開発しているヤフーの優秀なエンジニアが離散しかねない。これでは両社の連携の重要な目的が達成できない」と懸念を表明した。

  マイクロソフトが強攻策を打ち出せば、ヤフーはたとえ自らの広告ビジネスに打撃を与え、エンジニアを失うことになってでも、グーグルと提携しかねない。これではグーグルを利するだけで何のための買収か分からなくなる。バルマーCEOとしては買収提案を取り下げるしかなかった。書簡からはこう読み取れる。