要求仕様の正しさを実感

 「楽天市場はアクセス数が膨大なので,ちょっとしたUI(ユーザー・インタフェース)や機能の変更も顧客の購買に大きく影響する。それだけに,ボタン一つであっても気軽に位置を変えにくい。(以前は)リピーターの使い勝手を考えるがゆえに,顧客から見ると若干古めかしい印象が残っていたかもしれない」と,楽天市場のサービスやシステムをプロデュースする田中嘉生留氏(ECプロデュース本部 RMSプロデュース部門 部門長 )は語る。

 これは,稼働するまでその要求が正しかったかどうかを確認できないという,要求定義の難しさを示している。そのために,思い切った要求を入れることに二の足を踏むことがあった。

 その楽天市場が10月5日,UIの一部を思い切ってリニューアルした。UIを担当するナビゲーション・チームは,要求の確からしさを確認するために,新しいやり方を取り入れた。

 田中氏らが実践したのは,顧客からのアクセスのうちランダムに選んだ3%を,リニューアル候補である新しいUIのページにアクセスさせる,という方法である。従来のUIと新しいUIとで顧客の動きを比較すれば,新しいUIの良しあし,つまり要求仕様の正しさや間違いが分かるというもの。人間の感覚では決めにくいところを,定量的な根拠をもって判断するための手法と言える。

 ナビゲーション・チームは今回“商品ページへの流入率”を指標にリニューアルの効果を測定してみた。商品ページへの流入率とは,検索結果やカテゴリのリンクから,商品のページにどの程度のアクセスがたどり着けるかを見るものである。流入率が高いほど,良いUIだと判断できる。

 リニューアルの候補として試作したのは,大きく4パターン。ボタンの位置や画像のサイズ,機能を説明する文章などを少しずつ変えて,指標がどの程度向上するか,あるいは低下するかを見ることにした。

 1~2日もすると,結果が分かった。試作したパターンの一つは期待した効果が出なかったが,あるパターンはUIを変更しただけなのに1.2倍くらい指標が向上した。「予想していたのとは少し違った。意外な結果に驚いた」(田中氏)という。

 効果の高いページのレイアウトが分かったことで,新しいUIに自信を持ってリニューアルできた。

先に仕掛けを用意しておく

 「大切なことは,仮説→実行→検証→仕組み化というサイクルを回すこと」と田中氏は言う。上記のやり方は,このサイクルに沿って進めなければ効果を発揮しない。

 具体的には,仮説の段階では効果測定の指標を先に考えておく必要がある。今回のケースで言えば“商品ページへの流入率”がそれに当たる。検証の段階では,効果測定の仕掛けを考えておく必要がある。ログの取得やログを分析する仕組みがなければ,効果を測定できない。

 様々なパターンを用意できればベターだが,ページを試作するだけでもコストがかかる。もちろん効果の見られなかったページは不採用になるので,こうしたやり方をすべてのページに展開できるわけではない。

 楽天市場でも,このやり方を採用しているのはトップページや一部のサービスに限られている。楽天市場のナビゲーション・チームは,今回初めてこの手法を取り入れた。