HSDPA(high speed downlink packet access)対応のモバイル・データ通信サービスとシン・クライアントを組み合わせた「モバイル・シン・クライアント」の導入が広がりつつある。ノート・パソコンの社外持ち出しを禁じていた企業も,シン・クライアントであれば採用しやすい。専用のデータ通信サービスも登場した。

 シン・クライアントを社外で利用するモバイル・シン・クライアントが現実的なソリューションになってきた。既に企業の導入事例が登場し,専用端末やサービスまでも出始めた。

 いまや多くの企業が情報漏えい防止のためにノート・パソコンの社外持ち出しを禁止している。だが,これまでモバイル環境で業務をこなしていたユーザーにとっては不便極まりない。シン・クライアントなら端末側にデータを残さないので,たとえ紛失したとしても情報漏えいにつながらない(図1)。これまで使っていたノート・パソコンに,画面転送ソフトなどを導入すればシン・クライアント端末として使えるため,企業にとって導入しやすい。

図1●メガビット/秒クラスのサービスの登場でモバイル・シン・クライアントが現実的になってきた
図1●メガビット/秒クラスのサービスの登場でモバイル・シン・クライアントが現実的になってきた

 モバイル・シン・クライアントを可能にしたのは,携帯電話のデータ通信サービスの高速化だ。現在,NTTドコモやイー・モバイル,ソフトバンクモバイルが提供するHSDPAサービスは,理論値で下り最大3.6M~7.2Mビット/秒。実効速度で下り1Mビット/秒以上出ることが多い。

 1Mビット/秒という実効速度は,モバイル・シン・クライアントを快適に使う際の一つの基準となる。

 2008年3月にモバイル・シン・クライアントを導入した日本総研ソリューションズによると,「300k~500kビット/秒程度の実効速度だとようやく使えるレベル。モバイル・シン・クライアントでは500kビット/秒以上の速度が必要。800k~1Mビット/秒であれば快適に使える」(総務サービスセンター第一課の沼田正弘氏)という。同社は7月までに約650ユーザーにモバイル・シン・クライアントを広げる予定だ。

シン・クラ向け再販サービスも登場

写真1●サイボウズ・メディアアンドテクノロジーの「Nexterm TN07 Series」
写真1●サイボウズ・メディアアンドテクノロジーの「Nexterm TN07 Series」

 モバイル・シン・クライアント用の製品とサービスを提供するのがサイボウズ・メディアアンドテクノロジー(サイボウズMT)だ。同社は2月,小型ノート・パソコンを開発する工人舎の製品をベースにした新端末「Nexterm TN07 Series」を発売した(写真1)。ハード・ディスクを内蔵しない専用のモバイル・シン・クライアント端末である。「既に,ある金融機関で実験導入が始まっている」(サイボウズMTの吉川良一 執行役員)という。

 サイボウズMTでは同時に,モバイル・シン・クライアント向けデータ通信サービス「サイボウズMT メガパケット」の提供も始めた。これはソフトバンクモバイルのHSDPAサービスを再販するもので,定額制ではないが低廉な料金で使える。月額7200円で350万パケットまで使えるプラン(1年契約,超過分は別途課金)と,月額1万円で500万パケットまで使えるプラン(同)を用意した。吉川氏は「シン・クライアントの場合,下り方向は画面データの転送だけなのでトラフィックは多くない。1カ月350万~500万パケットあれば十分使える」としている。