開発のスコープをどこまで広げるべきか?開発のゴールをどこに設定すればよいか?

 要求がモヤモヤしている段階でこれらの問いに答えるのは難しい。開発のスコープとは,経営戦略の実現のために「どんなシステムを構築するか」ということであり,開発のゴールとは経営戦略の実現のために「これから構築するシステムに期待する効果」に相当する。BSC戦略マップ(注1)をうまく使うと,この二つの問いに根拠をもって答えられる(注2)

 バランススコアカード(BSC)は,「財務」「顧客」「ビジネスプロセス」「学習と成長」という四つの視点でバランスの取れた経営戦略を策定する手法である。それを分かりやすく表現するのがBSC戦略マップである。

因果関係の定義で目標はっきり

 経営戦略が策定されると,全社的あるいは部署レベルでそれぞれ計画が策定される。これがBSC戦略マップを記載するときのベースになる。例えば「3年後に120億円の増収」といった内容がそれに当たる。これを実現するために必要な課題や目標を戦略マップ上に書き込んでいく。ただ,いきなり戦略マップに向かっても,何をどう書いていけばよいか戸惑う人も多いだろう。書き方のポイントは三つある。

 一つは,課題や目標の間に因果関係を定義していくことである。一見バラバラに見える課題や目標であっても,経営戦略との関連を意図して記載していくことで,経営戦略と矛盾しない課題や目標がはっきりする。

 もう一つは,課題や目標を分類(注3)しながら定義していくことである。(図1)ではある流通企業を例に,戦略マップの左半分に付加価値の創造による「収益源の増大」,右半分にコスト削減による「生産性の向上」に関する課題や目標を配置した。この書き方は,相反する課題の整合性を考えるのに役立つ。

図1●書き始めのBSC戦略マップの例(財務視点の例)
図1●書き始めのBSC戦略マップの例(財務視点の例)
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 三つ目は,課題ごとに目標値(「新規購入者の会員化率80%」「登録会員数10万人」など)を定義すること。他の目標との整合性を確認しながら整理していくとよいだろう。

 このようにして,BSC戦略マップを記述したのが(図2)である。「会員向けサービスの充実」「ネット販売の開始」といった具体的な記述にまでブレークダウンされている。これがビジネスとしての課題や目標になる(注4)

図2●完成したBSC戦略マップの例(顧客の視点,ビジネスプロセスの視点の例) 図3●手段の視点と情報システムの視点を追加した例
(IT貢献度マップ)
図2●完成したBSC戦略マップの例(顧客の視点,ビジネスプロセスの視点の例)
図3●手段の視点と情報システムの視点を追加した例(IT貢献度マップ)

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要求定義のゴールに変換する

 ここに記述した課題や目標は,あくまでもビジネス全体を対象として設定されたゴールである。まだ要求定義のゴールにはなっていない。ビジネスのゴールを要求定義のゴールに変換する作業が必要になる。

 まず,BSC戦略マップの下に,五つ目の視点として「手段の視点」を追加する(図3)。ビジネスプロセスの視点で洗い出した課題や目標のうちシステム化できそうなものに着目。同時に,システムに期待する効果の目標値を設定する。「ポイント利用3万件/年」「システムによる配送管理100%」といったものである。さらに,その下に六つ目の視点として「情報システムの視点」を追加する。ここでは,「手段の視点」で洗い出した内容を具現化する情報システムを検討する。

 最後に,IT貢献度マップ(図3)の検討結果を基に「プロジェクトゴール記述書」を整理する。「何をすることで」「何が」「どうなるのか」を簡潔に記述し,目標の達成時期と目標値を明記するとよい(表1)。記述する内容は「手段の視点」「情報システムの視点」で定義したものを持ってくればよい。

 最後に,IT貢献度マップ(図3)の検討結果を基に「プロジェクトゴール記述書」を整理する。「何をすることで」「何が」「どうなるのか」を簡潔に記述し,目標の達成時期と目標値を明記するとよい(表1)。記述する内容は「手段の視点」「情報システムの視点」で定義したものを持ってくればよい。

表1●プロジェクトゴール記述書の例
表1●プロジェクトゴール記述書の例
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