Forrester Research, Inc.
レイ・ワン プリンシパル・アナリスト
ロブ・カレル プリンシパル・アナリスト

 今日、大企業の役員は従業員や株主の前に立って、会社の重要な資産である「データ」が育成され保護されることが重要だと言っている。不幸にも、マスターデータ管理は、口で言うよりも導入するのには障壁が高い。

 まず挙げられるのがマスターデータ管理を、単に技術的な側面だけで先導しようと考えること。そして“ダーティ・データ”が単にIT側の問題であると片付けてしまうこともそうだ。本来、データを活用する側である事業部門が、深くかかわるべきだがそうなっていない。重要な決断をしたり事業のイニシアティブをとる上で、製品在庫の内容や顧客の所在、これまでの関係などの的確で最新の情報が必要不可欠だ。

 マスターデータ管理を進めるためのテクニックも重要である。複数のデータ領域同士の途方もくれるような複雑さを管理するのは難易度が高い。適切なソフトウエアを導入したり、それにかかわるデータのガバナンスや人員を配置せずに取りかかると、失敗する。

 また、マスターデータ管理はコストがかかる。例えば、企業全体にソリューションを適用しようとすると平均的に50万ドルから200万ドルかかる。これで終わりではない。専門家の人件費にこの2倍のコストがかかることもある。

 社内の上層部を巻き込めない場合もある。データの重要性を理解しつつも、必要なリソース、予算、不良データのリスクを避けるのためのプライオリティを与えないので、多くの場合、マスターデータ管理を企業全体の戦略に組み込めない状況に陥ってしまう。

 こうしたマスターデータ管理の推進に立ちはだかる要素には事欠かないが、IT戦略における優先度が高いという点に異存はないようだ。図1は欧米のIT部門に対し、今後12カ月の間にソフトウエア分野で重要とみる取り組みを聞いたものだ。実に44%もの企業がマスターデータ管理を挙げている。

図1●マスターデータ管理がキー・テクノロジーとして台頭する
図1●マスターデータ管理がキー・テクノロジーとして台頭する
欧米の1017社のIT部門に、今後12カ月間にソフトウエア分野で重要とみる取り組みを聞いた
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 取り組みを進める方策は様々だ。経営陣や利用部門にマスターデータ管理導入の重要性、メリットを実感させるのも手である。改善され得る最も重要なビジネスプロセスを選び、実際のビジネス・ケースでお粗末なデータがどのように業務に悪影響を与えているか見せることができる。

 その際にはIT部門が「利用部門の言葉」で会話することが重要なポイントだ。推進するには、役割や責任を明確にし、幹部社員が関与する運営委員会を設置して問題対処のスピードを上げなくてはならない。運用を見すえ、デ ータを管理する担当者のトレーニングにもきちんと投資するべきだ。