前回に引き続き,今回も迷惑メール対策について考えてみたい。

「オプトイン」採用で法令遵守を証明する記録保存が義務化

 第114回で触れたように,迷惑メールを規制する法律としては,迷惑メール対策法以外に特定商取引法があるが,この2008年6月11日に,改正特定商取引法と改正割賦販売法が参議院で可決成立した。改正特定商取引法では,消費者があらかじめ承諾しない限り迷惑広告メールの送信は禁止される。改正割賦販売法では,個人情報保護法でカバーされていないクレジットカード情報の漏えいや不正入手をした者も,刑事罰の対象となる。

 これらの法改正に伴い,受信者の同意を得ない広告・宣伝メールの送信を禁止する「オプトイン」方式への移行が明確になった。特定商取引法の迷惑メール関係規定については,今年6月18日より6カ月以内に施行される予定である。

 情報システム部門の観点からの迷惑メール対策と言えば,スパム対策,送信ドメイン認証技術など受信側の対応が中心だった。だが今後,マーケティング・販売部門などで,送信側として「オプトイン」であることを証明する記録の保存義務が課せられる。改正後の迷惑メール対策法および特定商取引法では,以下のように規定されている。

【改正迷惑メール対策法第3条第2項】
前項第1号の通知を受けた者は,総務省令で定めるところにより特定電子メールの送信をするよう求めがあったこと又は送信をすることに同意があったことを証する記録を保存しなければならない(迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会(第9回)「参考資料1特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(改正後)」参照)。

【改正特定商取引法第12条の3第3項】
販売業者又は役務提供事業者は,通信販売電子メール広告をするときは,第1項第2号又は第3号に掲げる場合を除き,当該通信販売電子メール広告をすることにつきその相手方の承諾を得,又はその相手方から請求を受けたことの記録として経済産業省令で定めるものを作成し,経済産業省令で定めるところによりこれを保存しなければならない(「特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律について」参照)。

 保存の対象となる記録の具体的内容,保存方法,保存期間などについては,各省令で規定されることになっている。アウトソーシングサービスを利用したメール・マーケティングを行う企業の場合,外部委託先の管理・監督が重要となるが,個人情報保護法と迷惑メール防止法,特定商取引法では,外部委託先に関する定義や責任範囲が異なるので,注意が必要だ。

迷惑メール対策は「守り」ではなく「攻め」の手段になる

 今や消費者は,テレビ,新聞,雑誌,ラジオ,OOH(Out of Home:交通広告や屋外広告など,家庭以外の場所で接触するメディアによる広告の総称),電話,インターネット/モバイルなど,クロスメディア型の情報収集活動を行っている(関連記事1「『情報収集はマスメディアとネットの両方で』,クロスメディア型行動が全世代で増加」,関連記事2「OOHとは」)。

 新規顧客開拓を目的としたアウトバウンド型マーケティングの場合,受信側から電子メール送信に関する同意を得る際に,メールアドレス以外の個人情報も同時に取得するケースが一般的だが,その記録には,定型データだけでなく,メール,音声,画像,紙の書類など様々な形態の情報が含まれる可能性が高い。従って,「オプトイン」を証明する記録を保存するアーカイブシステムには,定型情報および非定型情報を一元的に管理できる機能が必要不可欠となるだろう。

 他方,メールに関する問い合わせを受けるコンタクトセンターの担当者は,送信先の相手によって情報ライフサイクル管理のプロセス(情報の取得,活用,管理・保管,破棄)が異なる状況下で,ユーザー情報を瞬時に検索しながら,顧客離反を招かないように対応しなければならない。ネットマーケティングの観点からは,生涯顧客価値向上と法令遵守の両立を実現できる一元的な情報共有基盤の構築・運用が求められており,迷惑メール対策は「守り」ではなく「攻め」の手段となる。情報システム部門はこのことを認識しながら,マーケティング・販売部門に対する技術支援を積極的に行うべきである。

 次回は,特定商取引法とともに改正された割賦販売法が個人情報保護対策に及ぼす影響について考えてみたい。


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■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディングリサーチマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。医薬学博士

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/