ソニー生命保険の専務である嶋岡正充さんはCIO(最高情報責任者)不要論を可としている。「米国でよくあるように、ぐちゃぐちゃになったシステムの再構築や合併後のコスト削減という非常事態ならばCIOは必要だが、システム担当トップは会社からの注文をしっかりこなすのが仕事である」と言い切る。最近の趨勢(すうせい)でCIOが率先して経営に参加し、IT(情報技術)を経営に生かすことでもっと会社の成長に貢献できるのでは、と尋ねると、「まだまだやることはいっぱい。注文を100%こなせば120点だ」と反駁されてしまった。

 嶋岡さんがソニー生命(当時のソニー・プルデンシャル生命)に入社した時は、システム部門は5、6人の所帯、全社員数も300人レベルの規模だった。ルールにしろ、手順にしろ、システムをつくり上げるのが、会社をつくり上げることと同期していた。IBMの大型コンピュータから始まり、大規模システムの開発、オープン化とネットワーク構築と与えられた命題をきちんきちんとこなし、1日としてシステムが止まったことはない。

 生命保険業界といえば、工場もなく物流もなく、商品を生産しているのは、いわばシステムだともいえる。ゆえにシステム部門の予算は他業界に比べて潤沢であるはずだが、ソニー生命では徹底的なコスト意識が浸透しており、運用コストは極端に低い。にもかかわらず実績が出せているのは、嶋岡さんの理論を実践しているおかげだ。100円の消耗品を節約するために1万円のコストをかけても徹底的に議論する。1万円かけたら元も子もないと考えずに、「それで人が育つ」という考え方だ。それがシステム部門の基本。社内でシステムはきちんとやっているという信頼も得られる。

 実際に嶋岡さんは、注文通りでなく、予見して注文以上の仕事をしている。端末しか必要がなかった時代にパソコンの導入を決断。2点を結ぶネットワークの構築を依頼され、広域ネットワークを構築した。ウェブの世界を見越し、ウェブアプリケーションと大型コンピュータの連動を行った。注文以上にかかるコストは普段からの信用力があるからこそ、実行が可能だった。

 言われたことだけをやっているから「スパゲティ」になるのだ。増築を指示されたら増改築を実施する。だから、いつまでたっても家は新しい。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA