電話やメール,インスタント・メッセージ(IM),テレビ会議,Web会議など,様々なコミュニケーション手段を一つのアプリケーションで統合的に利用可能にするユニファイド・コミュニケーション(UC)。コミュニケーションを取りたい相手が在席しているのか電話中なのかといった状態(プレゼンス)を基に,そのシーンごとに最適な手段を選んでコミュニケーションができる(図1)。社員間のコミュニケーションの円滑化によって業務効率を向上させるソリューションとして,2000年前後から製品が登場している。

図1●多様なコミュニケーション手段を統合するユニファイド・コミュニケーション(UC)
図1●多様なコミュニケーション手段を統合するユニファイド・コミュニケーション(UC)
メールやインスタント・メッセージ(IM),電話,テレビ会議などを,コミュニケーション相手の状態などによって臨機応変に使い分けられる機能を持つ。
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 これまではNECや沖電気工業(OKI),米シスコなどの主に通信機器ベンダーが製品を用意してきたものの,広く普及するには至っていない。「問い合わせがあるのは半年に1回程度で,まだユーザーのニーズは低い」(日立製作所ネットワークソリューション事業部の秋葉俊夫ネットワーク統括本部事業企画部主任技師)。ベンダー各社もUCのメリットを十分にユーザーに訴求できていないのが実情だ。

 そんな中,これまでの通信機器側からのアプローチに加えて,米マイクロソフトや米IBMなどのアプリケーション・ベンダーの動きが活発化している。2007年末から,自社のアプリケーションやグループウエアにUC機能を融合させた製品を,積極的に拡販し始めている。

 企業のオフィスで広く使われているアプリケーションにUCの機能を組み合わせることで,IP電話など通信の付加機能としてだけでは実感しづらかったUCのメリットを,これまで以上に訴求する考えだ。

導入のメリットが実感しづらかった

 これまでUCが企業ユーザーに広く浸透してこなかった理由は,UCのメリットがユーザーに十分伝わっていなかった点が大きい(図2)。

図2●UCの市場は未だ立ち上がらず
図2●UCの市場は未だ立ち上がらず
UC製品は2000年前後から市場に現れているが,「特に必要性を感じない」,「導入のハードルが高い」,「通信インフラの準備が必要」といった理由から,導入は進んでいない。
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 まずユーザーは,UCの必要性を十分に感じていなかった。IMなどのコミュニケーション手段が企業に浸透していない状況では,複数のコミュニケーション手段を統合するUCのメリットを実感しづらかったからだ。例えば携帯電話を利用すれば,UCシステムを使わなくてもコミュニケーションを取りたい相手に即座に連絡できる。

 しかも,これまでのUC製品はベンダーごとに仕様がまちまちで,導入のハードルが高かった。原則,SIPサーバーからクライアント・ソフト,ビデオ会議用システムなどを1社でそろえなければならず,導入コストが跳ね上がる傾向にあった。そのコストに対して,業務への効果を数値化しづらい点も,企業が導入を躊躇(ちゅうちょ)する理由になっていた。

 さらにUCの導入には通信インフラの整備が必要という点もハードルを高くしていた。多くのUC関連アプリケーションは,前提としてIP電話のインフラを必須としている。Web会議などのUCの手段を利用するにはアクセス回線の帯域の増強も求められる。結局これまでほとんどの企業ユーザーは,コスト削減効果が明確であるIP電話の導入にとどまっていた。

 IDC Japanが2008年2月に発表したUC導入状況の調査によると,IP電話を導入した企業のうち,約35%が通話履歴や電話帳などのUCに関連するアプリケーションを導入している。しかし業務の効率化などを目的に積極的に活用する企業は,その中の10%程度となっている(図3)。

図3●IP電話を利用している企業のUCの導入状況
図3●IP電話を利用している企業のUCの導入状況
電話帳や通話履歴などの機能を中心に,全体で約35%の企業がなんらかのUC関連アプリケーションを導入している。ただしUCを積極的に活用し,業務の効率化につなげている企業は10%程度にとどまるという。
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 調査を担当したIDC Japanの眞鍋敬コミュニケーションズリサーチマネージャーは「UCはまだれい明期の技術で,VoIP導入によるコスト削減を目的とした域を出ていない。業務効率化への応用はまさにこれから」と語る。