フリー・エンジニア
高橋隆雄 フリー・エンジニア
高橋隆雄

 今回は前回に引き続き初心に帰って,Asteriskを取り巻く状況を見ていく。2年前の本連載開始時とは状況が異なっている部分も多々ある。既にAsteriskをご存知の方も,改めてAsteriskについて知っていただきたいと思う。

 前回ご紹介したように,Asteriskのキャッチフレーズは“Asterisk(TM): An Open Source PBX”である。オープンソース・ソフトウエア(OSS)として存在するPBXはAsteriskだけではないから,“The”ではなく,“An”なのである。

 よくある勘違いが,「SIP Express Router」(SER)などSIP(session initiation protocol)の呼制御に使われるSIPルーター(あるいはプロキシ)を,SIP対応のPBX(構内交換機)として紹介してしまう例だ。これらはあくまでも呼制御をしているだけであり,PBXではない。もっとも,Asteriskは“PBX”のカテゴリーを超えて,IVR(自動音声応答)プラットフォームだったりもするので,単に“PBX”と呼ぶのは正しくないかもしれないのだが・・・。

Asterisk以外のオープンソースPBX

 OSSのPBXとしてもっとも知名度が高く,採用例が多いのはAsteriskであることは間違いない。さらにAsteriskからの派生(ディストリビューション)はかなり多い。以下ではディストリビューションではなく,Asteriskとは全く別に開発されているOSSのPBXを紹介する。

OpenPBX
http://www.voicetronix.com/
 オーストラリアのボイストロニクス(Voicetronix)社が開発したOSSのPBX。Perlで記述されている。対応するハードウエアは,同社製のボード(アナログ/デジタル)のみ。IP(SIP)については別途開発中。

SipX
http://www.sipfoundry.org/
 独立系のオープンソース団体であるSIPfoundryによるOSSのPBX。VoIP(voice over IP)にフォーカスしておりIP-PBXの機能のみを備える。サポートするプロトコルはその名の通りSIPのみ。

YATE
http://yate.null.ro/
 YATEとは,Yet Another Telephony Engineの略。こちらもVoIPにフォーカスしており,SIP/H.323/IAXの各プロトコルをサポートするほか,Jingleサーバー機能やIVRエンジンも備える。

FreeSWITCH
http://wiki.freeswitch.org/
 こちらもVoIP向け。SIP/H.323/IAX/Jingleをサポートする。古くから開発が行われているOSS PBXの一つだが,正式版の1.0.0は2008年5月にリリースされたばかりである。

 Webサイトを検索すれば,これら以外にもいくつかOSSのPBXが見つかるだろう。複数のOSS PBXが登場していることから分かる通り,世界的にはPBXにもオープンソース化の波が押し寄せている。OSS PBXが無視できない勢力となりつつある。

 面白いことにこれら前述した新興のOSS PBX,特にVoIPにフォーカスしたものは,IAXプロトコルをサポートしている。IAXとは「Inter Asterisk eXchange」の略で,元々はAsteriskの独自プロトコルだった。だが,“NAT越え”の容易さや呼の自動張り替え(自動転送)機能などが扱いやすく,優れた点が多々あるため,最近のVoIPでは無視できないプロトコルの一つとなってきている。とりわけPBX間をIPで接続する場合に役に立つプロトコルである。

 依然として日本国内では,「PBXといえばPBXメーカー/ベンダーのもの」という認識が強く,「オープンソースのPBXなんか使えない」という意見も少なくない。だが,この状況は以前も経験したものではなかっただろうか?現在,「Linuxなんて使えない」という認識をする人は少ないはずだ。また違う言い方をすれば,「会社のWebサーバーにApacheなんか使えない」という人もいないだろう。Asteriskも着実にこれらのOSSと同じ道を歩んでおり,その過程で多数のOSS PBXが登場してきていると言える。