今回のテーマは「説明力」です。皆さんは仕事を進めるうえで,次のようなことはないでしょうか。

・顧客にとってメリットのある提案をした(けれども採用されなかった・・・)
・リソースの追加について伝えた(けれども追加はなかった・・・)
・とてもいいアイディアを進捗会議で発表した(のに採用されなかった・・・)

 自分の話を相手にただ分かりやすく伝えるだけでは,相手が納得・同意するとは限りません。つまりビジネスでは,分かりやすく伝えるための「伝達力」だけではなく,自分が意図したことを相手に納得・同意してもらう「説明力」が必要になります。そこで今回は,前回に説明した「伝わる話し方」をベースに,「説明力」を身に付けるためのポイントを紹介しましょう。

説明力が必要なのはプレゼンだけではない

 医療の世界では「インフォームドコンセント」という言葉をよく聞きます。これは医者が患者に対して病状や手術などの治療方針を説明して,患者に納得してもらったうえで同意を得ることを指しています。医者が「単に事実を伝えるだけ」では,患者は納得して同意することはできないでしょう。医者には,自分の考えを正しく理解してもらう「伝達力」に加えて,相手が納得して同意する「説明力」が求められるわけです。

 ITエンジニアの仕事でも,単に相手に分かりやすく伝えるだけではなく,相手に納得・合意してもらい,結果的に相手の行動を促さなければならないコミュニケーションは多いものです。例えば,「ステークホルダーに仕様変更の必要性を説明して同意してもらう」「顧客に設計書の内容を説明して同意してもらう」などです。ITエンジニアも医者と同じように,「伝達力」と「説明力」の両方が必要になるのです。

 「説明力」と聞くと,「プレゼンテーション」をイメージする人が多いかもしれません。「大勢の聞き手を前に話すプレゼンテーションの機会は少ないので,説明力なんて必要ない」と思っている人もいるかもしれません。しかし,説明力はプレゼンテーションだけで必要になるスキルではありません。日常の仕事の中の実に多くのコミュニケーションで,「説明力」が必要になります。

「ストーリー」に沿って説明する

 では相手に納得・合意してもらうためには,どのような点に気をつければよいのでしょうか。

 基本的な考え方は,話を整理して構造化することです。ここでいう構造は,説明のための「ストーリー」ととらえてください。

 前回,自分の話を分かりやすく相手に伝えるためには,話す前に一度考えを整理して結論から先に話すことが大切,と述べました。

 しかし,結論(言いたいこと)を論理的に分かりやすく話すだけでは,相手は理解はできても納得・同意まではしてもらえないことがあります。私たちは自分にとってのメリットや恩恵が感じられなければ,また自分への配慮が感じられなければ,どんなに正論でも一方的なものと受け止めてしまうからです。

 そこで,結論と理由を論理的に分かりやすく述べた後で,相手が具体的にイメージできるメリット(相手にもたらす恩恵)を説明します。その後,内容を要約して自分がどうして欲しいと思っているかを述べ(ダメ押し),最後に相手への配慮を示す一言で締めます(相手の立場に立つ)。このように,結論→理由→相手のメリット→要約と意思表示→相手への配慮という「ストーリー」で説明するのです(図1)。この順番をぜひ覚えておきましょう。

図1●相手に納得・同意してもらいやすい説明の流れ
図1●相手に納得・同意してもらいやすい説明の流れ
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