横井 正紀
野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部
上級コンサルタント グループマネージャー

 アウトソーシングの増加によって、最近は中国国内で優秀なSEの獲得競争が激化している。加えて最低賃金が上昇し、また企業の従業員雇用形態に関する法が整備されたことで、IT系人材の確保が課題になってきた。

 しかし、人の数だけをみれば中国には余力が十分ある。そこで、人材供給拠点となる大学をはじめ、教育機関ではIT系人材の育成に余念がない。大連市などの中国系SI企業に出向くと、人材育成のための教室が完備されており、自社のSEのみならず学生やその他の社会人にも門戸を開いている。これは、人材育成施設を所有し育成をする企業には税制が優遇されるといった、人民政府の施策が功を奏しているといって良いだろう。このように、官民あげて市場の人材需要に応える体制を整えている。

 ただし、プログラミングができる人材への育成体制は整っているが、プロジェクトマネジャー(PM)クラスのエンジニアとなると、人材はほとんどいない(図6)。

図6●現在の中国の人材供給傾向。PMクラスはまだほとんどいない
図6●現在の中国の人材供給傾向。PMクラスはまだほとんどいない
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 これはPM要件を備えた人材は座学だけでは育てることができず、システム構築やプロジェクトの経験が必要だからである。つまり、システムやプロジェクトの全体を把握せずに下請け的な業務を請け負っているだけでは、このような人材は育ちにくい。小さなプロジェクトでも良いので、リーダーを経験し、システム構築のプロセスやシステムが適用される業務フロー、ビジネス環境を認識していく過程が求められるのである。

 このような視点で見ると、中国の大きなシステム系企業であっても、構築と運用には豊富な人材を擁しているものの、概要設計や要定義など、コンサルティングおよび設計に焦点を当てた上流工程を組織化し、自社の強みとしている企業はない。

 日本企業とのオフショアに特化するのであれば、この部分は日本企業が行うので必要ないかもしれない。しかし、自社としてシステムインテグレータとして独り立ちをもくろむ中国のIT企業は、IPO(初回株式公開)などを契機に企業買収や戦略提携によってこの部分を強化しようと考えている。

 来年以降、成長著しい中国のシステム系企業の多くはIPOの計画をもっており、上場時の株式資本をベースにダイナミックな動きをとってくる可能性は十分ある。

気になる規制緩和と政府の動き

 中国の民間企業は積極的に海外に眼を向けているが、中国政府は外資参入には慎重な姿勢を見せる。情報通信分野でもそれは根強い。

 最近は中国国内でデータセンター需要が高まってきているが、データセンターを外資が単独で構築し運用することはできない。これは、中国の「電信法」に抵触してしまうためである。データセンターは通信産業か情報産業かという問答は不毛であると感じるが、中国本土に外資資本のみでデータセンターを構築することは、この法の規制に阻まれる。

 中国の「電信法」は制定から約10年になるが、正式に公布されたものではない。よって、法といわれながら立法ではないところに、外資系のみならず国内の関係企業も不満を募らせている。中国政府もそれは十分認識しており、国内外の立法調査研究機関と協力して、海外諸国の通信立法状況と国際通信業の発展状況を踏まえた上で作業を進めており、まもなく法として制定される見込みである。

図7●中国のデータセンターの利用状況
図7●中国のデータセンターの利用状況

 データセンター需要は金融や公共ではBCP(事業継続計画)やDR(災害復旧)の必要性が認識されており、関連したシステムインテグレーションを行っている企業は、データセンター床面積を2倍から3倍に拡張する計画を持っている。また、クラスもTierIII(欧米金融機関が中心になって策定した、データセンターを定量的に評価・格付けするための基準。IからIVまでの4段階)を中心に、北京郊外には中国国内では多分初めてと思われるTierIVレベルのセンターが建設されている。いずれも中国国内企業が実施しているが、その後ろで手綱を握っているのは、IBMやEDSやアクセンチュアなどの外資系企業である。

 またコンテンツ配信やオンラインゲームでデータセンターを利用するケースが拡大しており、日本で言うレンタルサーバー事業者が多く乱立し、コスト競争の様相もうかがえる(図7)。

 政府の動きは市場の動きを見る限り緩慢に思えるが、これも国内企業の育成や擁護に力点を置いているためであり、今後外資との連携に十分な価値を見いだせることを認識すれば、規制緩和は加速化すると考えられる。