横井 正紀
野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部
上級コンサルタント グループマネージャー

 人件費の抑制を目的として始まった中国へのアウトソーシングだが、最近はそれ以外の価値を見いだす企業も増えてきた。

 ある日本の予備校は、記述式問題の解答をスキャナーで読み込み、それを中国で日本語データとして入力したものをネットワークで複数の採点者に一斉送付することにより、採点リードタイムを短縮した。これによって記述式の試験でありながら、採点期間が短く、自分の成績が速やかに分かることが受験生に支持されている。

 このような、伝票や帳票に記載されているものをデジタルデータに変換するデータエントリー業務は、漢字文化圏である中国になじみやすい。また、人海戦術によって入力作業業務量に応じた体制が組める点でも中国に適している。

 業務フローの中に、デジタル化されていないデータが混在することは、ビジネススピードのみならず管理面でも課題とする日本企業は多く、データエントリー業務のニーズは高い。つまり、ビジネスのバリューチェーンを高めるためのソリューションが、このようなニーズを生み出しているのである。

業務フローを見直す機会も

 中国企業が日本企業からBPOを受託する場合、最も時間を割いて準備をするプロセスは業務マニュアル作りである。業務フローや仕事の手続きを可視化し、漏れなく記載できることができれば、BPOを引き受ける準備はおおむね整ったといっても過言ではない(図5)。

図5●業務の可視化には二つのアプローチがある
図5●業務の可視化には二つのアプローチがある
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 このマニュアル構築作業は、日本企業の現場担当者にヒアリングや議論を重ねながら行なわれていくが、素朴な疑問や日本企業が常識と思っていたようなことにも質問が及び、精緻な業務フローマニュアルが仕上がっていく。このようなプロセスを経て対象となる業務が可視化されていくと、業務フローの改善点などにも話が及び、業務フローを改善しながらマニュアル作りが進められることもあるという。

 最近の日本企業は、コンプライアンスやJ-SOX法に対応していく必要性から、業務プロセスをマニュアル化する取り組みに積極的である。つまりBPOを直近に指向する企業でなくても、業務の可視化ニーズは十分にある。中小企業であっても属人的に行われている業務プロセスに対して危機感を表明する経営者は多く、可視化によって属人性を排除するためにマニュアル化へのニーズは根強い。

 このように見ると、BPOを実施するか否かにかかわらず、業務フローを可視化してマニュアルを作り現状を見直していく過程の中で、BPOを生業とする中国企業の手を借りるようなことがあっても良いのではないかと感じる。