前回は,電子個人健康記録の観点からメタボ予防対策の個人情報保護について考えた。個人健康記録については,サービス産業創出支援の視点から2008年3月,経済産業省の「日本版PHRを活用した健康サービス研究会」が,「個人が健康情報を管理・活用する時代に向けて」と題した報告書を発表している。生活習慣病に起因する医療費の減少を目的とした厚生労働省の特定健康診断・特定保健指導とは分析の視点が異なるが,個人情報保護/セキュリティが最重要課題である点は変わらない。

 さて,今回は迷惑メール対策法改正について考えてみたい。

ねじれ国会の中で全会一致成立した改正迷惑メール対策法

 2008年5月30日,「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(迷惑メール対策法)」の改正案が参院本会議において全会一致で可決成立した。本連載でも第113回第114回で,迷惑メール対策法の改正論議を取り上げたことがあるが,今回の改正案は,受信者の同意を得ない広告・宣伝メールの送信を禁止する「オプトイン方式」を原則とするものである。

 経済産業省の「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」の中で,特定の個人を識別できるメール・アドレスは個人情報に該当すると例示されている。今回の法改正は個人情報保護対策にも直接関わってくる。

 改正迷惑メール対策法の具体的な内容,実運用のために制定される省令/ガイドラインの方向性などについては,総務省の「迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会(第9回)配布資料」で公表されている。特に,送信者と受信者の間で混乱が予想されるのが,メール・アドレスの第三者提供についての同意をめぐる問題だ。前述の「迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会」で公表された「最終とりまとめに向けた論点整理(案)」を見ると,第三者を通じた同意の取得について,以下のような論点が挙げられている。

  • 第三者を通じた同意の取得については,迷惑メールの温床になっている面もあり,ルール作りが必要ではないか
  • 特に,第三者を通じて同意の通知をする際に,他の送信者・送信委託者から広告・宣伝メールが送信される旨を表示していないウェブサイトや,そうした表示があったとしても受信者が認識できないようになっているウェブサイトがあるが,こうした場合は適正な同意の取得とは認められないと考えられるのではないか
  • 受信者が第三者を通じて同意を通知する際に,同時に複数の送信者・送信委託者に対し同意を通知するようになっている場合については,それらの送信者・送信委託者の個々の名称を受信者が認識できるように表示されていなければならないのではないか
  • 上記の同時に複数の送信者等に同意を通知するような場合,あまりに多数の者に一斉に同意の通知がなされる場合は,受信者が個々の送信者・送信委託者を認識しづらくなることから,受信者が正確に認識できる程度に限定することが推奨されるのではないか

 これらを見ると,第三者のレンタルリストを利用したメール・マーケティングについては,法的リスクが高くなることが予想される。慎重な対応が要求されることになりそうだ。

インターネット上の子どもの「安全・安心」対策が国家的課題に

 第130回で子どものケータイフィルタリング問題を,第138回で児童ポルノ事件を取り上げた。それらの動きを踏まえて,迷惑メール対策法改正案審議で採択された「参議院総務委員会附帯決議」を見ると,以下のような条項がある。

  • 迷惑メールによる被害は,受信者側が正しい知識をもって対応することにより,ある程度回避することが期待できることから,受信者側の対応策についても,引き続き国民に周知徹底を図ること。特に青少年が迷惑メールを通じて犯罪に巻き込まれる事案も発生していることから,青少年のメディア・リテラシーの向上に一層取り組むこと。

 子どもの「安全・安心」に関連する項目は,4月25日に閣議決定された「個人情報の保護に関する基本方針」変更に盛り込まれなかったが,迷惑メール対策法改正案審議では,「表現の自由」や「営業活動の自由」と並び,全会一致で採択された点が注目される。さらに6月11日には,「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案(青少年ネット規制法)」が参議院で圧倒的多数により可決成立している。

 このような動きは,業種・業界や企業規模に関係なく,全ての個人情報取扱事業者にとって,子どもの「安全・安心」対策が最優先課題となったことを意味する。次回は,技術的対策の観点から,改正迷惑メール対策法への対応について考えてみたい。


→「個人情報漏えい事件を斬る」の記事一覧へ

■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディングリサーチマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。医薬学博士

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/