China Pressは,「Google中国は5年以内に,中国インターネット検索エンジン市場のリーディング・カンパニーを目指す」というGoogle副総裁の李開復氏の発言を2008年4月14日付で報じた。2007年末時点で中国検索エンジン市場における各社のシェアは,Baidu.com:59.3%,Google.cn:23.4%,Yahoo.cn:11.0%,その他となっている(Analysys International 2008.1)。果たしてGoogle.cnは,依然約60%のシェアを誇るBaidu.comの牙城を切り崩せるのだろうか。

 Google.cnの障壁となるのは何かと考えた時,それはBaidu.comの知名度ではないかと筆者は考えている。

 Baidu.comは,これまで中国国内において積極的なブランド・プロモーションを行い,強力なブランドを築いてきた。その結果,中国では非インターネット・ユーザー層にもBaidu.comブランドが広く認知されるに至っている。このことは,日本において非インターネット・ユーザーでもYahoo! JAPANを認知していることに似ている。

 今後の中国検索エンジン市場にてシェアの動向を考える際,この“非インターネット・ユーザー”の存在はとても重要である。なぜなら,2008年2月現在,中国のインターネットユーザー数はすでに2.2億人を突破して世界第1位なのだが,この2.2億人は未だ全人口の16%強に過ぎないからである(参照:BDA諮詢公司)。

 Google.cnが中国検索エンジン市場でトップシェアを占めるためには顕在インターネットユーザーの切り崩しもさることながら,この“非インターネット・ユーザー”=“潜在インターネット・ユーザー”にいかにアプローチし,最初の検索エンジンとしてGoogle.cnを選択させるかが課題となるだろう。

 その戦略のひとつとして,ここでは冒頭で紹介したGoogle.cn中国総裁:李開腹氏に注目したい。従来多くの中国人にとってGoogleはやはり米国企業であるという印象が強かった。

 Baidu.comはこの点を強く意識し,「中国人のための中国語の検索エンジン」であることをプロモーションの核としてきた。その対抗策として,Google.cnは業界の世界的カリスマであり中華系出身である李開腹氏をGoogle.cnの顔とし,彼の活躍を通して中国人ユーザーのGoogle.cnに対するイメージの転換を図った。

 この戦略は現時点で想定以上の成果を上げていると思われる。なぜなら,一般的に中国人の組織は徹底したトップダウンであり,そうであるが故にトップの人物,大げさにいえば“徳”が,内外に与える影響は絶大だからである。李開腹氏の発言の成否は,まさに彼自身の活躍に依る部分も小さくないと言える。

 ただ,Baidu.comの李彦宏総裁がGoogle.cnの動きを座視するはずもなく,今後両トップの動向は中国検索エンジン市場への影響を一層強めるだろう。いずれにせよ,中国という広大なフロンティアを巡る攻防から,当分目が離せそうにもない。

 最後に,やや蛇足になるが「百Google度(バイ・グーグル・ドゥ)」というウェブサイトを紹介したい。このウェブサイトの検索窓にキーワードを入力すると,左右にBaidu.comとGoogle.cnの検索結果が表示される。

 検索エンジンがコモディティ化した現在,ユーザーは身近な検索エンジンを選び検索経験を積む。そして,欲しい情報を提供してくれる検索エンジンを使い続ける。これは国を問わず普遍的なユーザー・ニーズではないだろうか。中国でもユーザーの欲しい情報を提供できた,中国人ユーザーの真のニーズをつかんだ検索エンジンが,結果としてシェアを拡大していくことは間違いないだろう。

(執筆:アウンコンサルティング株式会社)




 本コラムは、アウンコンサルティングのサイト 「(((SEM-ch))) 検索エンジンマーケティング情報チャンネル」に連載中の「SEM特撰コラム」を再録したものです。同サイトでは、SEOや検索連動型広告など検索エンジンマーケティング(SEM)に関する詳しい情報を掲載しています。