本園 明史
ウルシステムズ シニアコンサルタント

 

 摩擦の絶えないプロジェクトの現場。本当に必要な情報を得られず孤立するマネジャ。結果、プロジェクトは破綻――。こうした事態に陥るのを防ぐ仕組みとして、本連載では2回にわたり、「マネジメントサポート」と「コーディネータネットワーク」という新たな2つの役割を提案してきた。最終回のPart3では、それぞれの役割に求められるスキルや、プロジェクトに適用する際の注意点を解説する。(ITpro)


 最終回となるPart3では、「マネジメントサポート」と「コーディネータ」に要求されるスキルや、これらの役割を現場に適用する際に注意すべき点について解説します。

伝える・促すスキルは必須

 マネジメントサポートに必要なスキルについて整理するために、もう一度マネジメントサポートのミッションや仕事内容を振り返ってみましょう。Part1Part2も参照してみてください。

 「プロジェクトの正確な状況をプロジェクト・マネジャに伝える」。「定義されたプロセスに従ってプロジェクトが確実に進行するよう、プロジェクト・メンバーを促す」。マネジメントサポートの仕事内容を簡潔に表現すればこうなります。この仕事を遂行するには、「マネジャはプロジェクトのどんな情報を把握しておく必要があるか」についての正しい知識と、情報を得るための行動力や判断力が求められます。

 プロセスを正確に実行するよう現場に働きかけること。現場からマネジャへの情報の流れを確保すること。そして報告される内容や精度を確認すること。マネジメントサポートはこれらのアクションに加えて、形式的なプロセスの遂行だけでは獲得しづらい、現場の“非公式な情報”を収集しなければなりません。そのような非公式な情報は、各メンバーの立場や価値観、主義主張の違いから来るもので、何気ない会話や現場の動きを注視していてこそ得られます。

 それらの情報を確実に、かつ効率的に収集するためのポイントは、「目的を見据えること」です。その目的とは、「マネジャが存在する目的」や「マネジャに期待される行動や求められる結果」です。これを考えていくと、マネジメントサポートに必要な情報が取捨選択できるようになります。

 プロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK(ピンボック)」に書かれている知識領域の各項目を再確認し、それらが盛り込まれている理由を考える。「私がマネジメントサポートとして参加するプロジェクトでは、マネジャはどのような情報を必要としているのか」と考える。「その情報を獲得するためにはどんなアクションが必要か」を考える。「トラブルを未然に防ぐにはどんなアクションが必要で、そのために必要な情報は何で、それをどう獲得するか」を考える。これが、マネジメントサポートとしてプロジェクトを成功に導くための最適な“準備運動”です。マネジメントサポートだけでなくマネジャとして働く人にも良い準備運動ですので、よろしければ頭の片隅に入れていただければ幸いです。

 マネジメントサポートには、頼まれればいつでもマネジャと交代できるだけの知識と経験が要求されます。例えば知識については、方法論の専門家になる必要はありませんが、ウォーターフォールからアジャイルに至る基本的な開発方法論の常識は知っておくのが最低条件です。それぞれの開発方法論のメリットやデメリット、方法論に応じたチーム作りの要諦、進捗や品質といった管理項目をおさえる方法。これらが体になじんでいる人材がマネジメントサポートになるべきでしょう。

 マネジメントサポートの仕事は、PMO(プロジェクトマネジメント・オフィス)とは似ているようで異なります()。PMOは外部から複数のプロジェクトを横断的にウォッチする機能に特化していますが、マネジメントサポートは特定のプロジェクトに内側から働きかけます。

図●マネジメントサポートとPMO(プロジェクトマネジメント・オフィス)の相違
図●マネジメントサポートとPMO(プロジェクトマネジメント・オフィス)の相違

人間への受容力が欠かせないコーディネータ

 次に、コーディネータに要求されるスキルを整理してみましょう。コーディネータのミッションは、プロジェクトで発生する「人ならでは」の問題や、形式的にプロセスを回すだけでは対応しづらい問題を早期に発見し、対策を打つことです。つまり、人間くさい理由が原因で発生しがちな、マニュアル化できないあらゆる問題を扱うこと、と言ってよいでしょう。

 コーディネータに要求されるのは、曖昧な表現で申し訳ないのですが人間という存在に対する理解です。人は、外部環境に何も変化がないにもかかわらず、日が変われば発言内容が異なってくるものです。機嫌が悪いときにはノーと答え、機嫌が良いときにはイエスと答えがちです。意思決定を下す際、会社の利益やプロジェクトの目的よりも、ついつい自分個人の利益や出世を基準に考えてしまうものです。また、プロジェクトの成功よりも目の前にいる上司の顔色が気になるものではないでしょうか。どんなに筋の通った正論でも、嫌いな相手の言ったことであれば賛成したくないという気持ちが湧き上がることでしょう。

 このように、人間は理屈では割り切れない行動をする存在であり、多くの矛盾を抱える存在です。それらがプロジェクトの進捗を左右しているのは紛れもない事実です。だからこそコーディネータには、気まぐれで身勝手という人間の性質にストレスなく対応していく能力が求められます。人間の本音と建前を理解し、自分勝手という本質を理解した上で初めて、コーディネータとしてメンバーの間に渦巻く矛盾を調整していく準備ができるのです。

 ただし、人間の扱いに長けているだけではもちろん不十分です。折衷案を作り表面的かつ「玉虫色」の決着を狙うといった調整では、プロジェクトは成功に導けません。つまり、そのような“調整”はコーディネータの本来の役割ではないのです。日和見の傾向を見せているプロジェクト・メンバーを叱咤し、何が何でもプロジェクトを成功に導くのがコーディネータの責任です。

 そのためにコーディネータは、時には意見の相違や利害の対立を表面化させたり、一時的にプロジェクトを混乱に陥らせてみたり、問題のあるステークホルダーの「無力化」を図る――例えばあえてメンツを潰すような場面を作り、発言力を奪う――といった、ややブラックな活動に手を染めることもあります。こうした活動の裏にあるのはただ一つ、「プロジェクトの成功」という目的です。