写真1●ついに日本に上陸する米アップルの「iPhone」
写真1●ついに日本に上陸する米アップルの「iPhone」
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写真2●6月3日に携帯電話の夏モデル12機種を発表したソフトバンクの孫正義社長
写真2●6月3日に携帯電話の夏モデル12機種を発表したソフトバンクの孫正義社長
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 ついにあの「iPhone」が日本に上陸する(写真1)。発売するのはソフトバンクモバイルだ(関連記事:ソフトバンクモバイルが国内でiPhone発売,2008年中に)。

 ソフトバンクモバイルは2008年6月4日午後,突然ニュースリリースを発表した。ただ,そのニュースリリースはたったの2行。「この度,ソフトバンクモバイル株式会社は,今年中に日本国内において『iPhone』を発売することにつきまして,アップル社と契約を締結したことを発表いたします」が全文である。

 この日は夏モデルの発表会の翌日。前日の発表会で同社の孫正義社長はiPhoneについては「ノーコメント」とだけ語り,一切口を割ろうとはしなかった。発表会では「ソフトバンクモバイルは女性にモテたい」(関連記事:「女性にモテたいソフトバンク」---携帯電話の夏モデル12機種を発表)と女性ユーザー開拓に熱心な姿勢を見せていた孫社長だが,アップルも口説き落としていたことになる(写真2)。

 現時点で「年内にソフトバンクモバイルがiPhoneを発売する」ということ以外,詳細は不明だ。同社の広報も「このリリースを発表するようにと言われただけ。実はそれ以外の情報を持っていない」と打ち明ける。

 ただ,今後の展開を予測することはある程度可能だ。今後の展開を考える上でのポイントは4点ある。(1)日本で発売するiPhoneの端末スペック,(2)どんな販売方法,価格で販売するのか,(3)ソフトバンクモバイル以外からiPhoneが登場する可能性,(4)iPhone上陸による日本の携帯電話市場への影響---だ。それぞれの項目ごとに検証してみよう。

(1)日本で発売するiPhoneの端末スペックは?
---次世代iPhoneを投入,3G対応や企業向け機能を強化

 現在,米国や欧州で発売されているiPhoneの通信方式は第2世代のGSM。ソフトバンクモバイルはGSMをサポートしていないため,第3世代(3G)のW-CDMA,もしくはHSDPAに対応した次世代iPhoneを投入することになる(関連記事:これがソフトバンク版iPhone仕様?米ガートナーが次世代iPhoneを予想)。米アップルは6月9日から米サンフランシスコで開発者会議「WWDC08(Apple Worldwide Developers Conference 2008)」を開催する。この席上で,次世代のiPhoneが発表されると見られている。

 次世代iPhoneには,現行のiPhoneのOSをバージョンアップした「iPhone 2.0」が搭載される。2008年3月に開催した開発者向けイベントで,米アップルはiPhone 2.0のベータ版とソフトウエア開発キット(SDK)を公開している(関連記事:アップルがiPhone SDKを公開,アプリ配布用の新サービスも発表)。ここでiPhone 2.0では,マイクロソフトのExchangeサーバーとiPhoneのメールやスケジューラとの連携やリモートワイプ機能など,企業向け機能を強化することが明らかにされている。またサード・ベンダーが開発したアプリケーションも「App Store」というアップルが運営する販売サイトを通して,自由にインストールできるようになる。

 このほか次世代iPhoneは,現行のiPhoneよりも22%薄型になり,GPS機能を備えるという噂もある(関連記事:次期「iPhone」,22%薄型に?)。

 いずれにせよ日本に上陸するiPhoneは,現行のiPhoneを大幅に強化したモデルになることだけは間違いない。週明けの6月9日にはその事実が判明するだろう。

(2)どんな販売方法,価格で販売するのか?
---アップルのブランドを前面に出した販売も

 米国でiPhoneは399ドル(8Gバイト版,約4万2000円)~499ドル(16Gバイト版,約5万2500円)で販売されている。日本でも端末の価格は,割賦販売などの導入によって販売奨励金を含まない金額が広まってきており,最近ではソフトバンクモバイルには9万円を超える端末がある。あえてiPhoneを安く見せる必要はないため,価格の自由度は高いと見られる。

 日本での販売方法,価格を考える場合,米アップルとソフトバンクモバイルの間でどんなビジネス・スキームを取っているのかが影響を与えそうだ。

 米国などでは携帯電話事業者がアップルに対して,売り上げの一部を“上納金”として支払っているとされる。このようなレベニュー・シェアを取る方式か,もしくはネットワークをアップルに提供するMVNO(仮想移動体事業者)的なアプローチも考えられる。

 ソフトバンクモバイルはディズニー・モバイルとの間で,端末開発からマーケティング,販売まで幅広く協業し,レベニュー・シェアするというアプローチを経験済み(関連記事:ディズニーがソフトバンクと協業で携帯電話サービスを開始,専用端末も用意)。iPhoneに関しても,同様のやり方で進める可能性がある。

 アップルのブランドを前面に出しつつ,ソフトバンクモバイルのショップやアップルの直営店でも販売,といった形が濃厚だ。

(3)ソフトバンク以外からiPhoneが登場する可能性
---NTTドコモからの発売も十分あり得る

 iPhoneの獲得を巡ってはソフトバンクモバイルのほかに,NTTドコモも熱心にアップルにアプローチしていた。近々退任するNTTドコモの中村維夫社長は,iPhone発表直後の2007年3月に実施したインタビューにて,「アップルのiPhoneはぜひやりたい」とコメントしていた(関連記事:米アップルのiPhoneは魅力的,話があれば是非やりたい)。

 もっともソフトバンクモバイルがiPhoneを獲得したからとはいえ,NTTドコモから発売される可能性が消えたわけではない。当初は1つの国でiPhoneを販売するのは1事業者と見られていたアップルの方針だが,最近になってそのポリシーは崩れてきている(関連記事:iPhoneの販売で,シンガポール,インド,フィリピン,豪州のキャリアがAppleと提携)。

 NTTドコモは,「引き続きiPhone発売に向けて,可能性を追求したい」というコメントをしている。ソフトバンクモバイルに続いて,NTTドコモから発売という可能性も十分に残っている。

(4)iPhone上陸による日本の携帯電話市場への影響
---ユーザーの移動は少数? 長期的には端末ベンダー主導の「黒船」に

 ソフトバンクモバイルがiPhoneを発売することによる影響についても考察してみよう。まず,日本のデジタル・オーディオ・プレーヤーの市場規模は2007年で約600万台。このうちiPodのシェアは50%以上であるため,少なくとも300万以上の潜在的なユーザーが存在することになる。これは純増数に陰りが見えてきた最近の日本の携帯電話市場からみると,かなりの規模になる。

 もっとも事業者間のユーザーの移動はそれほど起こらないだろう。iPhoneには,おサイフケータイやQRコードなど,日本の携帯電話では常識になりつつある機能は搭載しない可能性が高い。ユーザーはiPhoneを1台目の端末としてではなく,2台目の端末として利用するシーンが多くなるだろう。NTTドコモやKDDIからソフトバンクモバイルにユーザーが移動するのではなく,新規ユーザーが増える形になると見られる。

 長期的にはiPhoneの日本上陸は,日本の携帯電話業界への「黒船」としてのインパクトが大きい。iPhoneは端末メーカーであるアップルが,端末開発から販売方法,サービスまで一環してコントロールするモデルだ。このモデルでは携帯電話事業者は,ネットワークを提供し課金を代行する「インフラ提供事業者」でしかない。

 これまで日本の携帯電話は,端末の調達からサービス開発までを携帯電話事業者が垂直統合型で進めてきた。昨今は日本の端末メーカーが疲弊するなど,その弊害がささやかれている。iPhoneの上陸はその慣習を打ち破り,携帯電話のビジネスに新しい形を持ち込む起爆剤になるだろう。

日経コミュニケーションでは,日本に上陸することになったiPhoneの影響についての記事を7月1日号に掲載する予定である。興味のある方は,こちらも併せて参照していただきたい。