工事進行基準はその名の通り、本来はビルやプラントといった長期にわたる建設工事を対象にした収益の認識基準だ。完成を待って収益を計上する「工事完成基準」をビルやプラントなどの工事に適用した場合、実際の企業活動が財務諸表に反映されるまでにタイム・ラグが生じる。

 それでは、株主や投資家に企業の実態を正しく伝えらないという問題があった。このため建設業界などでは、工事の進捗度に応じて、売り上げ(収益)と費用(原価)を計上する工事進行基準が採用された。

 同様の問題が、プロジェクト期間が長期におよぶITベンダーにも該当する。そこで企業の活動実態に即した収益を財務諸表に反映するために、ソフトウエア開発にも適用されることになった。09年4月以降に始まる事業年度から適用開始と定められているが、それ以前の事業年度からも適用できる。

 ITベンダーにとって工事進行基準のメリットは、売上高を平準化できることである。3月期決算のITベンダーの多くは第4四半期に売上高が集中する。そのため年度末まで、実際の売上高が予測しづらいという問題点があった。一方デメリットは、長期にわたり顧客からの入金を伴わない売り上げを計上することである。入金が伴わない売り上げに対し、税金を先払いするといった義務が課せられる。

成果の確実性が見込めることが条件

 工事進行基準の詳細を定めているのが、企業会計基準委員会(ASBJ)が07年12月27日に公表した企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」および同適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用」である。

 ここでは工事進行基準を適用する条件として「成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、認められない場合には工事完成基準を適用する」としている。工事進行基準が「原則適用」と言われる理由はここにある。

 09年4月以降、ITベンダーはソフトウエア開発について、工事進行基準が適用できるかを必ず確認しなければならない。ただし「工期がごく短いもの」については、「工事完成基準を適用してもよい」としている。

図1●工事進行基準適用の背景と概要
図1●工事進行基準適用の背景と概要
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 成果の確実性を確保するためには、「『工事収益総額』『工事原価総額』『決算日における工事進捗度』を信頼性をもって見積もること」が条件となる。工事収益総額については、「対価が決定していること。工事を完成させる能力があること」などが信頼性の条件となっている。

 目に見えないソフトウエアの開発で特に課題になるのが、決算時における工事進捗度の測定方法だ。基準や適用指針では「原価比例法」と呼ばれる進捗度の見積もり方法を例に挙げている。

 原価比例法は、工事原価総額を分母に、その時点までに実際にかかった原価を分子に取ることで、工事の進捗度を測定する方法だ。ソフトウエア開発ではこのほかに、プロジェクトの計画や成果物、労働力を同じ指標に換算して管理する「EVM(アーンド・バリュー・マネジメント)」などを進捗度の計算方法として採用できる。