1960 年生まれ,独身フリー・プログラマの生態とは? 日経ソフトウエアの人気連載「フリー・プログラマの華麗な生活」からより抜きの記事をお送りします。2001年上旬の連載開始当初から,2007年に至るまでの生活を振り返って,週2回のペースで公開していく予定です。プログラミングに興味がある人もない人も,フリー・プログラマを目指している人もそうでない人も,“華麗”とはほど遠い,フリー・プログラマの生活をちょっと覗いてみませんか。

 今回は誰もが入っている(はずの)健康保険のお話である。サラリーマンなら,健康保険の保険料は給与から天引きされ,健康保険証が自動的に渡される。病気や怪我をして治療を受けるとき保険証を引っ張り出す以外に,意識することはあまりないだろう。しかし,会社を辞めて独立し,フリー・プログラマになったら,健康保険を自分で管理しなければいけないのだ。

 健康保険は制度上,大きく二つに分けられる。職場で加入する「健康保険」(被用者保険)と,地域で加入する「国民健康保険」(地域保険)だ。退社独立するときには,それまで入っていた健康保険の「任意継続被保険者」になるか,国民健康保険に入るのかを選択できる。任意継続とは,健康保険の被保険者期間が2カ月以上あれば,退社後2年間(55才以上で退社した場合は60才まで延長可能),同じ条件で被保険者でいられるという制度である。ただし,会社に勤めているときは事業主が保険料の半額を負担しているが(健康保険組合の場合は,事業主の負担割合を大きくしていることもある),任意継続の場合は全額被保険者が支払わなくてはならない。私の場合,独立当時,任意継続の方が有利だったので任意継続を選択した。

 さてさて,時のたつのは速いもので,独立からいつの間にか2年が経過した。国民保険への切り替え手続きをしなくてはならない。しかし,正直に言って,私はこの手の間接業務がおっくうだ。特に病気がちということもないので,そのままほったらかしにしておいて,やっと重い腰をあげたときには,期限切れから数カ月が経過していた。区役所の窓口に行って国民健康保険加入の申請書を提出すると,保険料を支払うように言われる。その額なんと50万円超。がく然とした。どうしてこんなことになってしまったのだろう?

ご,ごじゅうまんえん?

 職員が説明をしてくれた。その理由は,(1)任意継続の保険料を最後の1カ月分払い忘れた,(2)国民健康保険の保険料は前年度の所得をもとに算出する,であった。任意継続の場合,納付期日までに保険料を納付しないと,その翌日に資格を失い,自動的に国民健康保険に加入したことになる。まことにあっさりしていて容赦がない。このために保険料の滞納が思っていたより1カ月分多かったのだ。

 しかし,真の問題は(2)の方だ。任意継続の保険料は,退職時の保険料がそのまま据え置きになっていた。その後独立して収入が増えた。おまけに独立した初年度は会計のなんたるかをまったく知らなかったため,本来経費にできるはずのものまで,かなりの額を個人の所得にしてしまっていた。本連載の第1回をご覧いただけばわかるように,初年度の申告は大騒ぎで,ある支出を経費として計上すべきかどうかなんてことを気にする余裕はなかったのだ。国民健康保険の保険料は申告した所得をベースに算出されるのだから,たまったものではない。

 私は軽いめまいを覚えながら,全額を即金で払うだけの余裕がないことを職員に伝えた。すると,支払いの方法について相談しましょうと言う。気分は債務者である(事実,そうなのだが…)。話し合いの結果,月1回最低3万円を支払うという条件に落ち着いた。余裕ができれば,3万円単位で可能な限り返済していくというわけだ。国民健康保険の保険証と3万円の払い込み用紙の束を渡された私は,申しわけなさそうに一礼し,区役所を後にした。

 しかし,その後が悪かった。予定外の支出があったり,仕事が思うように取れなかったりで,月最低3万円の約束が果たせなくなってしまったのだ。そればかりか,年度が変わったため,新しい期の振込用紙までやってくるようになった。自宅あてに送付された督促状も数枚ある。このままでは保険証を取り上げられても文句が言えない。

 こうなったら残された手段はひとつ。経済的な見通しはつかないまでも,せめて支払う意思があることを示すしかない。それを相手がどう評価するかは別として,ほったらかしにしておくよりはいくらかはましだろう。意を決して区役所に出向いた。前回と同じように,支払相談のテーブルに案内された私は,経済状態がすこぶる悪いことを伝えた。しばらくやり取りした後,当面の間,毎月5000円でなんとか納得してもらうことになった。前回の反省を踏まえて,今回は払い込み用紙の発行を断り,毎月持参することにした。ただの紙きれが相手だと,私はどうもなめてかかるクセがあるようだ,ということに気が付いたからである。

 こうして私は,やっとの思いで「健康保険証を取り上げられるかもしれない」という恐怖から逃れることができた。このような顛末をお話しするのはまことにお恥ずかしい限りである。しかし,このようなご時世であるから,経済的に不安定で国民健康保険の保険料を支払うめどが立たないまま,保険証のない不安な毎日を過ごしている人もいるだろう。保険料を払うために,別のところから借金さえしている方も少なからずいらっしゃるのではないかと思う。若きフリーターが国民健康保険の手続きをせず,漠然とした不安にさいなまれている姿も想像できる。そういう時には,まず役所に行って相談に乗ってもらうことをお勧めしたい。仮に本当に支払い能力がないからといって,役所でコワモテのお兄さんにすごまれるといったことはないのだから。

 ところでおまえは結局,滞納した保険料を支払い終えたのかって? それは内緒ということでご勘弁いただきたい。さあ,がんばって稼ぐぞぉ。