NTTファシリティーズ
データセンター環境構築本部
長岡 朔太
矢頭 高広
平岡 真実

 データセンターを取り巻く環境には,地震や火災などの災害リスク,情報漏えいやコンピューター・ウィルスの侵入などのセキュリティ・リスクをはじめ,数多くのリスクが潜んでいるのが実情である。これらのリスクを回避できる堅牢性や信頼性を確保することが,データセンターを構築する上で必要不可欠になっている。

 連載の第5回では,データセンター施設(ファシリティ)の信頼性や,電力効率といった環境性能に関する国内外の(認証)基準や指標について解説する。データセンターを構築する際に,こうした基準や指標を参照することは極めて有効である。

米国の信頼性基準として普及が進む「Tier」

 米国では,データセンターの信頼性基準として「Tier Performance Standards」がよく知られている。これは,データセンターを運用する数十社の企業が集まって「The Uptime Institute(TUI)」という組織を作り,それぞれの蓄積した情報やノウハウを集大成して開発した認証基準である。

 TUIは,データセンターに要求されるパフォーマンス・レベルに合わせ,施設要件を4つの階層(Tier-1~4)に分類している。Tier-1~4はベンチマーク用として一般に公開され,多くの企業が参照している。TUIはまた,Tierによってデータセンターを格付けし,データセンターの信頼性に関する認証も行っている。

 Tierで定める施設要件には,立地条件や建物の堅牢性,電力の供給経路,電源容量,UPS(無停電電源)の配備状況からスタッフの配置状況に至るまで,様々な観点で評価を行っている。ここでは特に,「可用性」(Data Center Availability)という側面について詳しく説明する。

 可用性とは,システムをダウンさせることなく,継続的に稼動させる能力のことで,「稼動率」とほぼ同じ意味で使われ,下記の式で示すことができる。

 例えば,1年間(=8760時間)の運用の中で4時間システムがダウンしたとすると,そのデータセンターの可用性は次のように示される。

(8760-4)÷8760×100=99.954 %

 TUIでは,5年間の可用性によってデータセンターを評価する。すなわち,Tier-1で99.671%,Tier-2で99.741%,Tier-3で99.982%,Tier-4では99.995%以上という基準で評価している。

 一方,米国通信工業会(Telecommunications Industry Association;TIA)では,全米基準協会(the American National Standards Institute;ANSI)に即した基準として,TIA-942という220項目にわたるデータセンターのための電子通信基盤整備基準を示した。これは,TUIのTierを基に,データセンターを4階層に区分する基準を示したものである

 Tierはこのように米国の業界標準になりつつあるが,日本でこの評価基準を適用しようとすると,様々な問題が出てくる。例えば,立地条件および電力会社から供給される電力の信頼性の違い,地震発生頻度,年間を通じた温度・湿度の変化,さらには消防法の違いなど,日本版のTier基準がないために解釈が困難なところがある。

 そこで国内では,社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)から,2003年3月に「情報システムの設備環境基準(IT-1002)」が規定され,普及が進められている。2006年5月には,具体的な対策事例を収めた解説書「情報システムの設備ガイド(ITR-1001B)」も発行された。

 また,財団法人 金融情報システムセンター(The Center for Financial Industry Information Systems;FISC)からは,「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」が発行され,金融業界におけるサーバー室構築の指針として活用されている。