WANエッジ,つまり小規模拠点のルーターでの仮想化は,第2回で挙げたルーター/スイッチとは目的が異なる。運用負担の軽減を進めるために,サード・パーティ製を含め各種アプリケーションを統合した万能ルーターを構成する基盤として仮想化技術を活用する(図3-1)。

図3-1●拠点向け統合ルーターの仮想化
図3-1●拠点向け統合ルーターの仮想化
仮想マシンや仮想OSで区画分けした上で,サード・パーティに実行環境を提供。シングル・ベンダーに閉じない多機能化を実現する。
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 エッジ機器で,ルーター,セキュリティ機能,ID管理やサーバー・アプリケーションといった多様な要求を満たすには,ネットワーク機器ベンダーが1から10まで用意するのは無理がある。可能だとしてもベンダー依存度は高まりやすい。そこでエッジ機器の仮想化を進めるベンダーは,サード・パーティなどが開発したアプリケーションを搭載できるプラットフォーム作りを急いでいる。

 例えばインターネットイニシアティブ(IIJ)は,マネージドVPNサービス「SMF」で利用する拠点向けエッジ・ルーター「SEIL/X」に,サード・パーティ向けの実行環境を用意し,「SMFv2」サービスを2009年4月以降に展開する(図3-2)。サード・パーティがネットワーク機能をSMFv2 向けに提供し,インテグレータやユーザーが必要に応じてSEIL/Xをカスタマイズする。

図3-2●インターネットイニシアティブ(IIJ)が開発中のマネージド型ネットワーク・サービス「SMF v2」
図3-2●インターネットイニシアティブ(IIJ)が開発中のマネージド型ネットワーク・サービス「SMF v2」
同社ルーター「SEIL」にネットワーク・アプリケーションの追加・削除が可能な実行環境を搭載。仮想アプライアンスによる機能の取捨選択を可能にする。
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 現状では自社製のNetBSDベースのOSを前提とした開発環境となるが,「NetBSD以外のOSにも対応させる」(SEIL事業部事業推進部の林賢一郎部長)。他社製のネットワーク機器での採用を働きかけ,ユーザーが多彩なネットワーク機能を選べるようにする。

 通信事業者以外では,シスコが拠点向けルーター「Cisco Integrated Services Router」(ISR)にアプリケーション実行環境「Cisco Application eXtension Platform」(AXP)を追加。併せて開発環境を公開した(article/NEWS/20080528/304485/?ST=network)。エクストリームネットワークスもExtremeXOSの開発環境を公開。ExtremeXOS搭載スイッチに取り込むアプリケーションをユーザーが選べるWebサイト「Widget Central」を立ち上げた。米フォーステン・ネットワークスも,2009年にセキュリティ機能などを統合できるプラットフォームを提供する。

アプリ統合でWANトラフィックを削減

 統合ルーターと目的は異なるものの,サード・パーティのネットワーク・アプリケーションを取り込む動きを見せるのがWAN高速化装置(WAFS)だ。WAFSはWANをまたいだ通信のオーバーヘッド削減に特化したアプライアンス。基本的な考え方はキャッシュで,TCP/IPの応答確認パケットの代理返信などの仕組みを使い,WAN越しの通信の遅延時間を抑え,応答性能を高める。

 この目的を突き詰めて考えると,最も望ましいのはWAN越しの通信が生じない状態である。そこで考えられたのが,本社などのサーバー上にあるアプリケーション稼働環境を,リモート拠点のWAFS装置に統合する方法である(図3-3)。

図3-3●WAN高速化装置(WAFS)の仮想化
図3-3●WAN高速化装置(WAFS)の仮想化
WANのオーバーヘッド削減の効率化に仮想化技術を応用する。
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 具体的には,WAFS装置に仮想化技術を適用し,アプリケーションの稼働環境を用意する。アプリケーション稼働環境をクライアント側のWAFS装置に統合してしまった方が通信の効率は上がる。「ユーザーは単機能ネットワーク機器をブランチ・オフィスに導入したがらない。そもそも専任管理者がおらず運用できない」(リバーベッドテクノロジーの遠井雅和社長)という事情もある。

 仮想マシンを用意して他のアプリケーション・ベンダーに開放すれば,取り込めるサーバー・アプリケーションの範囲も広がる(図3-4)。実際,米リバーベッドテクノロジーが2月に製品を発表した。同社製のアプライアンス「Steelhead」やNECの「WebBooster」向けのOS「RiOS」に仮想マシンを統合。サード・パーティのアプリケーションを組み込む実行環境として「RiOS Services Platform」(RSP)を追加した。既にプリント・サーバーの機能も用意しており,ユーザーは必要に応じて組み込める。「夏には米インフォブロックスのDHCPサーバー・アプライアンスを仮想アプライアンスとしてRSP向けに提供する予定」(リバーベッドテクノロジーの寺前滋人テクニカルコンサルタント)である。

図3-4●アプリケーションの取り込みでWAN通信を効率化
図3-4●アプリケーションの取り込みでWAN通信を効率化
トラフィックを最適化するだけでなく,拠点に分散配置した方が望ましいアプリケーションを,仮想マシンなどを使って統合する。
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 このほか,シスコとマイクロソフトが2月,シスコのWAFS製品とマイクロソフトのサーバーOS「Windows Server 2008」を統合した小規模拠点向けアプライアンスを共同開発する計画を発表した。

 米シトリックス・システムズも,同社のWAFS「WANScaler」とWindows Server 2008を統合した製品を開発コード名『Evergreen』として開発中だ。「WAN回線の帯域が狭い環境のブランチ・オフィスに向く」(シトリックス・システムズ・ジャパン マーケティング本部ネットワークプロダクトの山村剛久担当部長)。