最近よく目にするSaaS,クラウド・コンピューティングといったトレンドとともに,企業ユーザーに浸透しつつあるサーバー仮想化。同様に,ネットワーク機器にも仮想化技術が採用され始めている(図1-1)。機器の仮想化とは,1台のハードウエアを複数に見せたり,複数の装置を1台に見せること。目的はネットワーク機器の信頼性を高め,運用を容易にすることにある。
図1-1●仮想化技術の普及によってネットワークの構築・運用がシンプルになる ネットワークが「箱」の集合から「機能」の集合に進化する。物理的な設置や配線を伴うことなく,設定変更などの「運用」だけでネットワークを柔軟に構築・更改できるようになる。 [画像のクリックで拡大表示] |
特にニーズが高いのが,多数の仮想サーバーを運用するデータ・センター。サーバー仮想化によってアプリケーションの展開やディザスタ・リカバリにかかる時間の単位は「日月」から「分秒」にまで縮まる。当然,その屋台骨となるネットワークの構成変更にかけられる時間も減る。
その好例がソフトバンクテレコムが実施した仮想データ・センターの実験だ。同実験では,東京と大阪の両センターで稼働する仮想サーバー群の片方がダウンした際に,残りのセンターの仮想サーバーに約5分で移行できることを実証した(図1-2)。同研究所の橋本健主任研究員は「これまで少なくとも半日はかかっていたディザスタ・リカバリの復旧時間を,分単位に短縮できる」とする。
図1-2●ソフトバンクテレコムが実施した仮想データ・センターの実証実験 東京-大阪間を10Gビット/秒の低遅延回線で接続。仮想サーバーとそのネットワーク環境を東京から大阪に丸ごと移行する実験を実施した。 [画像のクリックで拡大表示] |
具体的には,仮想サーバーを動かすサーバー機に10Gビット/秒のInfiniBandカードを装着。米シーゴシステムズのI/O仮想化装置「Xsigo VP780」を使ってInfiniBandネットワークを仮想ギガビット・イーサネットとして見せることで,仮想サーバーが動作するセンターを問わない構成とした。
ハードの進化で統合に現実味
例えば米シスコは,データ・センター向けスイッチ「Nexus」に仮想化機能を実装した。ユーザーには複数のNexusが稼働しているように見せられる。アライドテレシスと日立電線は,オフィスに散在するLANスイッチを巨大スイッチとして束ねるためのアプローチとして仮想化技術を使う。同様に,アプリケーション・スイッチ製品やセキュリティ・ゲートウエイ製品にもその波は押し寄せている。
対応製品が増えている背景にあるのは主に,ネットワーク機器のプロセッサなど,ハードウエア面の進化。「マルチコアCPUの普及により仮想化が現実味を帯び始めた」(ネットワンシステムズNWテクノロジー本部の岩本智浩本部長)。LANとWANの高速化が進み,機器同士を連携させやすくなったことも理由の一つだ。ネットワークの仮想化機能がデータ・センターや企業ネットワークに浸透し,物理的・論理的に集約が進むと,企業ユーザーは物理的な制約にとらわれずにネットワークを構築できるようになる。システム増強や構成変更といった運用の手間とコストも抑えられる。
実際には一口に仮想化技術と言っても,目的や実現方法は機器の種類や製品ごとに違っているケースが多い。第2回以降では,ルーター/スイッチ,アプリケーション・スイッチ,セキュリティ・ゲートウエイの3タイプに大別し,それぞれの仮想化技術による進化後の姿を探る。