エノテック・コンサルティングCEO 米AZCAマネージング・ディレクタ 海部 美知 |
米国で2008年1~3月に700MHz帯周波数免許が競売にかけられた。この帯域はモバイルに適した周波数特性を持つ「一等地」である。米グーグルが鳴り物入りで参戦したために,今回は特に注目を集めた。
グーグルのロビー活動の結果,今回競売された周波数ブロックのうちの「Cブロック」には,「端末とアプリケーションを開放する」という義務が課せられた。ただし「開放義務のせいで落札価格が上がらず,十分な免許料が国庫に入らないぞ」というFCC(連邦通信委員会)に対する事業者の脅しが功を奏し,C ブロック全体の落札価格が一定の金額(約46億ドル)を超えなかった場合には義務化条件を外して競売をやり直すというルールも付いた。
「すわグーグルが携帯に参入か」と大騒ぎであったが,結果としてグーグルは一つも免許を落札しなかった。問題のCブロックの競売は,開放義務発効の金額をわずかに超えたところで終わった。グーグルの狙いが「その値段までは吊り上げる」ことにあるとすれば,目的は達成したことになる。
知略に富んだベライゾン
ふたを開けてみると,米ベライゾン・ワイヤレスと米AT&Tの2社がA~Cブロックの大半を落札した。グーグルの意図はさておき,この結果を携帯電話業界の側から眺めるとベライゾンの「策略」が透けて見える。
Bブロックで最も多くの地域数を落札したのがAT&Tだが,その落札価格がつり上がり,結局Bブロック全体の入札総額はAやCよりも大きくなってしまった。
これには,AT&Tが2007年10月に買収した米アロハ・ワイヤレスが絡んでいる。もともとアロハが多数保有していてAT&Tが買収によって獲得した帯域は,今回の入札対象に隣接する「Lower700MHz」で,これはBブロックと補完関係にある。AT&Tは,買収で得られなかった“穴”を今回の入札で埋めようと考えたわけだ。
そうした動きを予想し,競合するよう入札し値段を吊り上げて余分なコストをAT&Tに支払わせ,相対的に自社のコスト構造を有利にしようとしたベライゾンの“嫌がらせ”が背後にあったと私はにらんでいる。
大半の地域で開放義務が問題にならず
AT&Tは律儀にBブロックしか入札しなかったため,Aブロックではベライゾンが主要地域を低い落札価格で手にでき,またCブロックでも米国本土すべてを落札した。
考えてみればベライゾンにとって「開放義務」が問題になるのは容量不足の厳しいニューヨークやロサンゼルスなどの大都市だけだ。これらを義務のないAブロックでしっかり押さえておけば,あとは全米をCブロックで薄くカバーしておけばよい。
結果としてAT&Tとベライゾンの両者ともにほぼ全米を700MHzでカバーし,次世代方式のLTE(long term evolution)を展開するための帯域を確保できた。しかし,この入札に関して言えば,ベライゾンの「知略」が際立つ結果となった。
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