ワーキング・グループ(WG)2は,プロジェクトマネジメントのプロセスを定義する場である。モダン・プロジェクトマネジメントの特徴の一つに,プロセス指向がある。定められたプロセスに則ってプロジェクトマネジメントを実施することでその透明性を確保する狙いがある。プロセスを定めることで,プロジェクトマネジメントのPDCAサイクルを効果的に回すことも期待できる。

 PMBOKガイド第3版では「特定のプロダクト,所産,またはサービスを実現するために実行される,相互に関連する一連のアクションとアクティビティ」とプロセスを定義している。プロジェクトマネジメントとして実施すべき作業(アクションとアクティビティ)を定めたものとも言える。

 つまり,WG2で議論されているプロジェクトマネジメント・プロセスの定義は,プロジェクトマネジメントの国際規格の肝と言っても過言でない。独自のプロジェクトマネジメント標準を持っている参加各国は,当然独自のプロジェクトマネジメント・プロセスの定義を持っているわけで,これを標準化するのは簡単な作業ではない。PC236に登録している国の数は25カ国あるが,そのうちWG2に参加した国は16カ国である(参者総数は23人)。

 以下,ワシントン会議でのWG2の様子を,日記風に描写していこう。現場の雰囲気を感じてほしい。

4月21日(月):日本代表が言語モニターに任命

 午前中に開催されたプレナリ(全体会議)に引き続き,WG2会議が開催された。会議冒頭,Language Monitors(ルーマニア代表と日本代表を選出)が決められた。Language Monitors とは,英語が母国語でなく不得意な参加者で,議事について行けなく なったときに割り込みを入れる係である。

 その後,前回のロンドン会議で暫定的に決まった45のプロジェクトマネジメント・プロセスに対して各国専門家から出されていたコメント(追加,削除,マージ,修正)についての審議が始まりまった。審議の結果,新規プロセスを二つ追加し,マージによって3プロセスを削除し,44のプロセスが決まった。

4月22日(火):Methods&Toolsの要否などで紛糾

 前日に取りこぼした,新たに追加すべきプロセス(コンフィギュレーション・マネジメント)について審議したが,結論が出なかった。継続審議とすることになった。また,WG2のアウトプットについて議論が行われましたが,結論を得るには至らなかった。議論した項目は以下の通りである。

(1)プロセスのレイアウトや構造
(2)Methods&Toolsに関する記述(不要論であるとの主張もあり紛糾)
(3)(1)および(2)などの記述の詳細度
(4)総ページ数(20ページ程度に減らすべきとの主張もあり紛糾)

 会議後半から,三つのSG(Small Group)を編成し,検討を開始した。

(1)SG1:Process Mapping。PMBOKのプロセス群と知識エリアのマトリクスに似た表を検討する。
(2)SG2:Review and Suggest resolution of comments。各国専門家からのコメントを分類,優先順位を付ける。
(3)SG3:Rewrite。フランスの書き換え提案への対応を検討する。

4月23日(水):SGを二つ追加

 WG2全体ミーティングを行われ,Lifecycle Managementに関するSG4の新設が承認された。また,各SGの経過報告が行われ,以下のような検討結果が報告された。

・ISO10006との整合を考慮し,旧「Project Aspect」を「Project Groups」に,旧「Process Groups」を「Process Areas」に変更した。
・新「Process Groups」に「Stakeholder」を追加した。
・プロセスの記述中には,インプット,Methods&Tool,アウトプットが記述されているが,Methods&ToolsはWhat-toではなくHow-toを表すものなので削除すべきという案がフランスから出された。WG内で投票の結果,フランス案は賛成多数で可決された。
・新「Process Area」中の「Monitoring and controlling」はControllingにMonitoringが含まれるという理解から「Controlling」に変更された。
・「Initiation」「Definition」「Implementation」「Completion」という四つのフェーズを設定した。

 また,プロセス定義の書き直しを行うSG5を新設した。

4月24日(木):中間報告

 会議冒頭,コンビナ(議長)からこの日の予定と進め方と,WD2(WD改訂版)の作成予定期日の説明があった。説明内容は以下の通りである。まずSG1~5の中間報告を行った後,SGごとに作業を進め,作業結果を報告する。主な報告状況は以下の通りである。

・SG1の「プロセスのInput/Outputの一覧表作成」とSG5の「プロセス定義書き換え」は作業未完。SG2とSG3は作業完了。
・SG4は,「ライフサイクル」「プロジェクトマネジメント・プロセス」「サポート・プロセス」「プロダクト・プロセス」,その他のプロセスを「プロジェクト・ガバナンス」が統括する図を提案。基本的に了解された。

4月25日(金):議論を継続

 各SGの作業結果報告があった。その状況は以下の通りである。

 SG1からは,プロセス数が44になったことに加えI/Oの数を400強から100に減らしたことなどが報告された。SG2は報告無し,SG3はすべてのコメントを反映して,書き直し版をWG2事務局に提出。SG4関連では「Lifecycle」図を4章に入れることが決まった。SG5はまだ作業を実施する模様である。

 その他,プロジェクト計画書の名称を「Project Management Plan」とするか「Project Plan」とするかの議論があった。英国代表が推奨案を提示することとなった。また,コンフィギュレーション・マネジメントをプロセスに入れるか否かの議論があった。これを入れるべきと提案したフランス代表が,既存のプロセスにコンフィギュレーション・マネジメントが含まれているか否かを検討することになった。

今後の作業予定

 ワーキング・ドラフト(WD)改訂作業について,未完作業を終了させた後,7月1日にWD第2版をWG2セクレタリ(事務局)へ集約する。次に,各国専門家の最終コメントを吸収し,WG2コンビナの承認を得て,8月1日にPC236セクレタリへ提出する。

 未完作業は,SG1関連の「プロジェクトマネジメント・プロセスのInput/Outputの一覧表作成」,SG4関連の「ライフサイクル定義/記述の作成」,SG5関連の「プロジェクトマネジメント・プロセスの定義等の記述作成」がある。

拙速ではないか

 WG2の参加メンバーは各国の専門家である。プロジェクトマネジメントについての知識や経験は豊富だったが,議論の土台となるPMBOKの知識についてはバラツキがあるように感じられた。

 このような状況の下で,規格書作りは,かなり早いペースで進行している。米国代表がWG2の場で指摘していたが,拙速に様々な決定がなされているようにも感じる。例えば,PMBOKで定義されている「プロセス・グループ」という名前を「プロセス・エリア」とした上に,個々の「プロセス・エリア」の名前を変更したり,「知識エリア」という名称を「プロセス・グループ」と変更(ISO10006との整合性を図ったため)している。また,各プロセスの入出力の数をかなり強引に減らしている。これらの変更は,本来数カ月かけて検討すべき事項ではないかと思われる。

 WG2ではSG(Small Group)に分かれて作業を実施したが,各SGのリーダーはそれぞれ異なる国の代表である。そのため,彼らの技術的,文化的な背景や経験が異なることから,検討結果に微妙なズレが生じている。各SGの結果は,それぞれのリーダーの顔を潰さないように尊重されているため,WG2の作業結果として統一性/整合性に欠ける側面があるようにも思われる。この状況が続けば,結果としてISOの規格書は各国の思惑をそれぞれ入れ込んだ,妥協の産物になるのではないかと危惧している。