プロジェクトマネジメントの国際標準を議論するISO/PC236は,WG1,WG2,WG3という三つのワーキング・グループ(WG)で検討を重ねている。今回は,WG1の活動を説明する。

 WG1のミッションは,ISOとして定義する「プロジェクトマネジメントの標準用語集」を作成することである。活動を開始した当初は,国をまたいで契約する場合などに活用できる共通用語集を目指すべきとの意見があった。特に,日本のように英語を母国語としない国では,他国とビジネスをする際に,世界共通の用語集に準拠した契約書を取り交わすことができれば,少なくとも用語に起因する契約上の問題が減少するのではとの期待が強かった。

 ところが,残念ながらそういう方向には議論は進んでいない。今回の活動では,2010年までに国際標準としての発効を目指すという時間的制約がある。加えて,総ページ数を50ページ以内に収めたいという分量の制約もある。これらが重なり,プロジェクトマネジメントに関わる用語をすべて収めるような用語集にすることは断念されたのである。結果的に用語集は,WG2で定義されたプロセスや,WG3から提案されるANNEXなど標準として規定される文章の中で使用されるものに限定されることになった。

 用語を選定するに当たっては,そのベースとなるものが必要である。前回のロンドン会議では,ANSI(米国規格協会)の用語集に掲載されている用語から採択する用語を選択していくと合意された。そのため,まずはWG2,WG3によって提案された本文に存在し,かつANSIの用語集にあるもの,さらにはANSI用語集には無いが本文にあり,かつプロジェクトマネジメントの用語として重要であるものを順に選択していくこととなった。

 用語が採用されるまでのステップを紹介しよう。WG1の中は,3チームに担当を分けて作業を分担している。下記はそれぞれのチームの名称と活動内容である。

(1)Initiationチーム
 どの用語を採用するかを決定する。
(2)Translatabilityチーム
 用語の定義文が適切かどうかを判定する。英語から各国語に翻訳するに当たり,難しい単語が使用されていないか,俗語等が使用されていないか,文章に冗長性は無いかなどをチェックする。
(3)Definitionチーム
 (2)で指摘された問題点を検討し,用語の定義文を改定する。

 まず(1)Initiationチームが採択する用語を決定し,その用語定義の翻訳容易性について(2)Translatabilityチームが判定する。その後,(3)Definitionチームで定義文が最終化される。このプロセスはロンドン会議で合意され,それぞれのチーム内での作業プロセスも詳細に定義されている。

 (1)Initiationチームの作業は大きな判断を必要とする。ほかのチームのメンバーも加わって,活発な議論を交わしている。ワシントン会議では時間と分量の制約から,採用する用語を必要最低限のものに限るため,一般的な用語については対象とせずプロジェクトマネジメントに特有のものだけを掲載することとした。そこで議論となったのが下記のような用語群である。

・一般的に使われる場合と,プロジェクトマネジメントの用語として使われる場合に,微妙なニュアンスの差があるもの
例:マイルストン,ベースラインなど

・接頭語としてプロジェクトが付くことで特殊な意味合いを持つもの
例:プロジェクト憲章など

・プロジェクトマネジメントでよく利用される用語であるが,国や標準によって別の用語を用いているもの
例:BCWPとEVなど

 これらの用語を採用するかどうかについては,一定のルールを設けた。その上で,それぞれの用語ごとに検討している。