総務省は,2008年4月から2011年3月の3年間の期限限定で,空いている周波数(280MHz帯と1.5GHz帯,5.8GHz帯,およびUHF/VHF帯)を利用し,「ユビキタス特区」における様々な実証実験を実施する。国の予算支援が行われない放送・通信の融合・連携サービス・プロジェクトとしては,2011年7月の地上アナログテレビ放送停波後に空くVHF帯での携帯端末向けマルチメディア放送サービスの実現を目指しているメディアフロージャパン企画やモバイルメディア企画,エフエム東京(FM東京)の実証実験が含まれている。

 FM東京は,デジタルラジオ実用化試験放送の枠組みの中で実施していた3セグメント・マルチメディア放送サービスを3月31日に休止。代わりに,ユビキタス特区で3セグメントを利用したISDB-Tsb(Integrated Services Digital Broadcasting - Terrestrial for Sound Broadcasting)マルチメディア放送実証実験に注力する。

 今回は,FM東京が福岡県で実施するISDB-Tsbマルチメディア放送実証実験の内容から,2011年以降のマルチメディア放送実現に向けたFM東京の取り組みについて説明する。

ISDB-Tsbマルチメディア放送,5テーマの実証実験を実施

 福岡県の「ユビキタス特区」で実施するISDB-Tsbマルチメディア放送実証実験は,FM東京とCSK-ISが実施主体となり,7月に予備免許を取得後,10月から本格的な実験を開始する。

 送信設備は福岡県福岡市にある福岡タワーに設置。東京と大阪で実施しているデジタルラジオの実用化試験放送と同じVHF7chを利用し,最大出力180W(30W×6セグメント)で電波を送信する(大阪の実用化試験放送と1セグメントあたりの出力は同じ)。受信範囲は,福岡市全域となる予定だ。

 本実験では,次の5つの実証実験に取組む。(1)レイヤー体系の地域放送への適用,(2)放送波ダウンロード・コンテンツ有料課金の検証,(3)放送波によるIP伝送,(4)複数方式に対応するマルチメディア放送端末の開発,(5)地下鉄構内再送信---である。

 (2)と(5)の実験では,既に商品化されているデジタルラジオ搭載携帯電話やUSB接続型受信機が利用できる。ただし,今回新たに追加した(3)と(4)については,新規に受信端末の開発も行われる予定だ。

「情報通信法(仮称)」の先取り実験と位置付けたレイヤー体系

 (1)では,今回FM東京は,以前検討していたマルチプレックス事業者システム(ワンセグの理解を深めるキーワード解説,マルチプレックス事業者)のような「レイヤー体系の地域放送への適用」を行う。インフラ・レイヤーと編成レイヤーとの間で,よりニーズに合った契約体系を構築し,各レイヤーの役割の在り方や収益バランスの取り方について検証する。

 従来の放送体系は,地上放送に代表されるソフト・ハード一体型と衛星放送に代表される委託・受託型の形態であった。しかし,本実験は総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」で提言され,2011年に導入を予定している「放送・通信融合の法体系『情報通信法(仮称)』の先取りの実験と位置付けている」(FM東京 執行役員 デジタルラジオ事業本部長の藤 勝之氏)。

 具体的には,通信事業と同じ「インフラを保有しそれを貸し出すレイヤー」,「チャンネルの編成を行う編成レイヤー」,「コンテンツを制作・提供するコンテンツ・レイヤー」の3つのレイヤー構造になる。

 つまり,CSK-ISがハードウエアの構築を含むインフラレイヤー,FM東京は編成レイヤーを担当。コンテンツレイヤーは,FM東京と地元の放送局6局のほか,地元の自治体である福岡市役所が協力して担当する(図1)。

図のタイトル
図1●FM東京がユビキタス特区で想定する「レイヤー体系」

 具体的なコンテンツが,既存の放送番組のサイマル放送になるか新規番組になるかは,コンテンツ提供事業者の判断になるという。さらに,全国コンテンツと地域コンテンツの両立や,情報が地域に特化した地域編成に有用なデータ放送ビジネスも検証する予定である。