小林 信次
マークアップ・エンジニア。茨城県出身。1980年生まれ。専修大学経営学部卒業後,1年弱のニート生活を経て,販売代理店の営業職を経験後,有限会社アイエイトワンに入社。主に,Webディレクション,マークアップを務めるかたわら,講師活動・執筆活動を行う。allWebクリエーター塾ではCSS講習の講師。著書に「XHTML&CSSデザイン |基本原則、これだけ。」(共著,MdN発行)がある。

 はじめまして。小林です。普段会社では「マークアップ・エンジニア」として仕事をしています。名刺には別途「Webディレクター」という肩書きもあるのですが,この連載はマークアップ・エンジニアの仕事にまつわる話を中心に取り上げます。

 まず,マークアップ・エンジニアがどんなお仕事をするものなのか?ということを説明します。

 「マークアップ・エンジニア」という言葉は,HTMLから来ています。HTMLの正式名称は「HyperText Markup Language」です。ここで,HTMLの「M」にあたる言葉が「Markup(マークアップ)」ですね。「Markup(マークアップ)」とは,そのままでは単なる文字列であるテキストに対して,HTMLタグ(<h1>,<p>,<div>など)を付与していくことで文章(文書)の構造を明示する作業を指します。

 ここからわかるように,マークアップ・エンジニアとはHTMLを作ることを主な業務とする,ちょっと前までは「コーダー」などとも呼ばれていた人たちのことを指しています。ただ,上記の説明だけで「マークアップ・エンジニア」の業務範囲を語るのは不十分です。より正確な中身を知ってもらうためには,もともとコーダーという名称からマークアップ・エンジニアが生まれたという経緯を知っていただくとよいと思います。

 マークアップ・エンジニアという言葉は,Web制作会社であるビジネス・アーキテクツの森田 雄(もりた ゆう)氏が考えた言葉です。森田氏は自社の求人情報の原稿を考えている際に,コーダーという名称はどうなんだろうなぁ,と思ったそうです。コードという言葉はプログラミング言語という意味合いも含みますよね。コーダーはプログラムを書いている訳でもないしなぁ,と悩んでいた際に,マークアップ・エンジニアという言葉を思いついたそうです。

 では,当のビジネス・アーキテクツの求人欄を見てみると,マークアップ・エンジニアの募集要項には以下のような条件が記載されています。

HTML/XHTMLのマークアップ,情報設計および文書構造のデザイン,エンタープライズCMSのテンプレート設計・開発,CSSの設計およびコーディング,JavaScriptのライブラリ設計・開発・実装。以下の技術に関する研究・設計・開発:XMLをはじめとする多様なウェブフロントエンド技術全般,アクセシビリティ,ユーザビリティ,各種オーサリングツールや開発プラットフォーム。経験年数不問。

 ここからわかるようにマークアップ・エンジニアとは,HTMLを書くだけに留まらず,ビジュアル・デザイン制作作業以降(または同時)に,Webサイトのユーザー・インタフェースの実装,または付随するツール群に精通している人と定義できるでしょう。

 また「情報設計および文書構造のデザイン」「アクセシビリティ」「ユーザビリティ」という項目も重要です。これらを実現するための業務は,「インフォメーション・アーキテクチャ」「アクセシビリティ(ユーザービリティ)スペシャリスト」などの肩書きを持つ人の仕事でもあります。つまり,制作フロー全体においては,ビジュアルデザイン以前の工程にもマークアップ・エンジニアが関わっている,ということです。

 この傾向は,Webサイトが大規模になりつつある現在,特に強まっています。マークアップ・エンジニアは,Webページの実装作業だけに留まらず,ユーザーがサイトを訪れてから目的を達成するまでの“体験(エクスペリエンス)”の質を左右する仕事,というわけです。

 また,これは個人的な考えですが,僕の周りのマークアップ・エンジニアの個人的資質に思いをめぐらせると,料理好きが多いという傾向があります。いや,料理のみならず,プラモデル作りなど何かしら「モノ作り」が好き,という人がほとんどです。

 日々押し寄せてくる納期の中で,何十,何百ページ,時には何千ページものHTMLを作っていかなければならないのがマークアップ・エンジニアです。そんな中においても,HTMLやCSSを書きつつ思い通りのレンダリング結果を得ることを至極の喜びとしているわけです。というわけで,職人的な作業としての「モノ作り」に対して喜びを感じることができる人でないと,続けていくことはなかなか難しい職業だと思います。

 マークアップ・エンジニアは,Webサイト構築作業の比較的後半部分を担います。ですから,作業の遅れなどの影響をモロにかぶらなければならない状況も多いという大変さがあります。しかし,だからこそ見えてくる制作フローの問題,改善策などをかなり具体的に提案出来るというのも特徴の一つと言えるでしょう。

 最近ではRIAなどの話題に注目が集まっていますが,今後もHTMLがWebから姿を消すことは考えられません。XHTML2.0,HTML5,CSS3といった新しい技術にも動向がみられます。話題が尽きない業界が,マークアップなのです。