富士通グループは,1979年に汎用機における集中開発とプログラミング言語間のコンバージョンのためにソフトウエア・ファクトリーを設立した。ピーク時には要員数約1500人,コンバージョン集中度90%,設立時に対して生産性300%を実現するに至った。ここで開発された標準化技法,ツール群はその後の富士通の開発技術の母体として汎用機を中心とした各種の大規模システムの開発を支えた。
しかし,開発規模,開発需要の急激な拡大,オープン化の流れの加速の中で,富士通をはじめとして,多くのSIベンダーや顧客が新規開発の多くを社外のパートナに外注する傾向を強め,ソフトウエア・ファクトリーの活動も各部門に分散されるようになっていった。
そんな中,富士通アプリケーションズは2002年にJavaとEJBに特化した開発専業会社として設立された。富士通グループが自らソフトウエア開発を行うことの意義は,以下の3点にある。
(1)日本の製造業がその強さの源泉である製造技術を自ら向上し続けることがソフトウエアの世界においても国際競争力を高めることにつながる。 (2)設計の革新と併せて,生産の革新を着実に進めることで富士通のSI全体の革新を進める。 (3)これらを通してソフトウエア開発の工業化に取り組むことで日本のソフトウエア産業全体に貢献する。
ソフトウエア開発の工業化は,ソフトウエア・エンジニアリングとして多くの諸先輩方が取り組んできた。しかし,多くの場合,掲げた理念や方法論を実現できなかった。その理由は,コストに対する強い抵抗が現場にあったからだ。上流,下流とよく言われる。開発は下流の仕事であり,人件費の高いSEにはプログラミングはさせられない。開発コストは人月単金の議論であり,人月単金の安いプログラミングの仕事は価値の低い仕事と考えられていた。これではプログラミング技術や方法論,生産性を追求するエンジニアリングの議論にはならず,いかに安い技術者を調達するかが実態となるしかなかった。
しかし,大規模なSI案件を受託し,確実にシステムを開発するには,品質,コスト,納期を守ることが絶対要件である。その上で,変化する顧客の開発ニーズに対応していくことが必要である。このためには,品質の確保,生産性の向上,納期の厳守を徹底的に指向する“工業化”が必要不可欠である。コストは単金ではなく,生産性として認識することにより,プログラマの付加価値を正しく評価することにつながる。
富士通アプリケーションズは設立以来,富士通のソフトウエア・エンジニアリングの実践工場を目指して活動してきた。開発におけるプロ集団を目指すのは当然として,本当の現場視点での技術開発,技術検証,開発マネジメントの方法論の確立など広い分野を指向してきた。
これから富士通アプリケーションズの基本的な行動指針である「四つの約束,六つの仕掛け」を説明していく(図)。それは技術論だけではなく,開発会社としてのマネジメント,人材育成など総合的な意味での「工業化された開発会社」の一つの姿であり,工業化への取り組みの実際である。
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図●四つの約束と六つの仕掛け [画像のクリックで拡大表示] |
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