ここまで見てきた省電力対応のサーバーやネットワーク機器を導入しても,ほかの部分で消費電力が増えたのでは意味がない。1台ごとに省電力に対応していても台数が増えればトータルの消費電力は増えてしまう。エンドユーザーがPCを操作していなければ,その時間分のモニターやPCの消費電力も無駄になる。

 そこで考えたいのがネットワーク・システム全体を見た上での省電力のための運用である。検討すべきは,各IT機器の台数抑制や,サーバー・ルームなどでの空調の利用抑制。実は,こうしたネットワーク・システム運用にかかわる節約は,IT機器の置き換えと同水準の効果を得られることが多い。

 消費電力の無駄を節約するために,最も身近な手段はPCの省電力モードの設定だろう。これは,Windows OSを搭載しているPCならどれでも簡単に設定できる。

 例えばWindows XPの場合,[コントロールパネル]にある[電源オプション]をクリックすると電源オプションのプロパティ画面が表示される。この画面で,「何も操作が行われなくなってから一定時間が経過するとモニターやハード・ディスクの電源を切る」といった設定をする。

 こうすると,PCを使用しないときにはモニターやハード・ディスクの電源をオフにでき,無駄をなくして消費電力を削減できる。

電源オフの効果は製品置き換えに匹敵

 ただ,PCの省電力モード設定は,社内全体に徹底させるのが難しい。設定そのものはエンドユーザーにも比較的簡単にできるが,意識が高くないエンドユーザーがいるかもしれない。設定ミスが発生する可能性もある。あらかじめシステム担当者がPCを省電力モードに設定して社員に配布する手もあるが,これもエンドユーザーがいつ設定を変えるか分からない。

 そこで効果的なのが,PC資産管理ソフトの活用である。社内のクライアントPC全体に強制的に省電力モードを適用させる(図4)。

図4●資産管理ツールを活用したクライアント・パソコンの省電力管理
図4●資産管理ツールを活用したクライアント・パソコンの省電力管理
一定時間が経過すれば電源を強制的にオフにするなどのポリシーを,LAN上のパソコンに対して一斉に適用できる。
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 クオリティは,同社の製資産管理ソフト「QAW」または「QND」を使って,クライアントPCの電源管理を実施している。QAWまたはQNDのサーバーに接続した管理対象のクライアントPCに対して,社内で統一した省電力のポリシーを強制的に適用する。仕組みとしては,QAWまたはQNDのエージェントに対して毎日,PC起動時に実行するコマンドを送る。エンドユーザーが勝手にPCの設定を変更しても,サーバーに接続した時点でポリシーが適用される。

 クオリティがその効果を計算した結果はこうだ。1日9時間のうち5.5時間がアイドル時間,実操作時間は3.5時間の場合,デスクトップPC1台当たりの月間消費電力は14kWh,ノートPC1台当たりの月間消費電力は4kWhとなる。これに対して,「PCの操作が行われなくなって10分後にディスプレイの電源を,20分後にハード・ディスクの電源をオフにし,30分後にシステム・スタンバイ,45分後にシステム休止」というルールを強制的に適用すると,デスクトップPC1台当たりの月間消費電力は7kWh,ノートPC1台当たりの月間消費電力は2kWhに収まる。デスクトップPC1000台の場合なら,月間7000kWh,年間では8万4000kWhの電力を節約できる(p.44の図3下)。図3上にあるように,省電力型PCへの置き換えによる効果は,PC1000台で月間7400k~9700kWh。省電力モードによる運用の効果はこれと同じレベルである。

 クライアントPCの電源の一元管理はほかのベンダーのクライアント管理ソフトでも実現できる。日立の資産管理ソフト「JP1/NETM」も,クライアントPCの電源管理機能を備える。例えばPCの利用を就業時間だけにしたい場合,終業時刻の一定時間前に電源オフの予告メッセージを発信し,終業時刻になると同時に予告通り電源を一斉にオフにできる。

 また,こうした資産管理ツールを使えば,省電力型PCの導入台数を把握するのにも役立つ。PCの更新のタイミングで省電力型のPCを何台導入すればよいか,計画を立てやすくなるからだ。

使用率が低いサーバーは“ゆっくり”動かす

 サーバーも運用次第で消費電力を削減できる。例えば使用率がそれほど高くないサーバーがある場合には,消費電力に制限を設け,この制限を超えないように監視・制御しながら運用する(図5)。

図5●消費電力量の上限を設け,それを超えないように監視・制御することで過度の電力消費を避ける
図5●消費電力量の上限を設け,それを超えないように監視・制御することで過度の電力消費を避ける
上限に近付くと,CPUのクロック周波数を下げるなどの対応によってサーバーの電力使用量を抑制する。
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 NECは,汎用のプラットフォーム管理ツール「SigmaSystemCenter」で,2008年上期に実現できるようにする予定だ。 SigmaSystemCenterは,消費電力の上限を超えそうになるとシステム管理者に警告を発する。管理者は,サーバーに対してCPUのクロック周波数を下げるように指示するなどして,消費電力上限の超過を防止する。操作はリモートからでも可能である。

 日本HPの場合は,ブレード・システム「HP Blade System c-Class」向けにサーバーの電力消費量を監視・管理するソフト「HP Systems Insight Power Manager」を提供している。c-Classは,負荷に応じてCPUのクロック周波数を調整する「ダイナミックパワーセーバー」と呼ぶ機能も備えている。

 ただし,安直にサーバーのクロック数を下げてしまうと,処理性能が低下して業務の生産性を下げてしまう可能性は否定できない。夜間だけクロック数を下げるなど,アプリケーションの種類と業務上の要件を考え合わせて運用する方がよい。

仮想化でサーバーのアイドリングをなくす

 電力消費量に上限を設ければ,そのコンピュータ単体では省電力化を図れる。ただ,これは対象となるサーバーの数が少ない場合のこと。サーバー台数が多いサーバー・ルームでは,こうしたアイドリング状態のサーバーが多くなるとリソースが無駄になり,結果として消費電力も大きくなりかねない。

 そこで,サーバーが多数ある場合には,アイドリングをなくせるように,できるだけサーバー集約を進めると効果を高められる。処理負荷に合わせて使用するサーバーの台数を柔軟に調整することで,サーバー群全体の消費電力の無駄を省く。そのための手段の一つとして急速に注目度が高まっているのがサーバー仮想化技術である。

 サーバーは処理負荷が低い状態でも,意外に電力を消費してしまう。そこで,処理をできるだけ1台のサーバーに集約して稼働させる(図6)。これにより,CPU使用率の低いアプリケーションによる消費電力を抑制するわけだ。

図6●仮想化技術を使ってサーバーを統合することによって,消費電力を抑えられる
図6●仮想化技術を使ってサーバーを統合することによって,消費電力を抑えられる
通常は3台が稼働する場合でも,稼働状況に応じて1台に集約させればそれだけ消費電力を削減できる。

 データ・センターの省電力化を進める日本IBM GTS・ITS事業インフラストラクチャー・ソリューションズの小池裕幸事業部長は,「仮想化とプロビジョニングの自動化を組み合わせることで,サーバーのアイドリングを減らせる」と説明する。夜間など,業務処理量が少ない時間帯には,サーバー集約によってあらかじめ稼働させるサーバー数を制限して運用することも有効だ。

 場合によっては,メインフレームなどの大型のサーバーを導入し,集約してしまう手もある。消費電力削減はもちろん,設置スペースや管理コストなどの削減にも大きな効果があり,空調の省電力化などにもつながるはずだ。例えばIBMは,Linuxサーバー8500台中3900台を同社のメインフレーム「System z10」約30台に統合しようとしている。System z10は1台でx86サーバー1500台分に相当する。「統合により,消費電力を80%削減できる」(日本IBMの小池事業部長)という。