企業のネットワーク担当者が,ネットワーク・システムの消費電力を下げる手段には,大きく二通りのアプローチがある。一つは,従来に比べて省電力化が進んだIT機器を導入すること。もう一つは,運用管理によって,既存IT機器の総消費電力の節約に努めることである(図1)。

図1●ネットワーク・システムの省電力化の手段
図1●ネットワーク・システムの省電力化の手段
社内のITインフラの省電力化とITシステムを使った総消費電力の節約という二通りのアプローチがある。

 省電力化の対象は,サーバー/ストレージ,ルーター/スイッチなどのネットワーク機器,クライアント・パソコン(PC)など多岐にわたる。ネットワーク管理者は,それぞれについて省電力製品の採用や消費電力の節約方法を検討することになる。

 消費電力が大きいIT機器と言うと,すぐにサーバーやストレージを思い浮かべるかもしれない。確かに単体の消費電力はサーバーやストレージの方が大きい。ただ今後は,ネットワーク機器の消費電力量の増加が目立ってくると見られている。

 経済産業省が試算するIT機器の消費電力量の内訳を見ると,サーバーやデータ・センターの消費電力量は,2025年には2006年に比べて約2.5倍,街頭のテレビなどのディスプレイが約5倍,ネットワーク機器が約13倍に膨れ上がる計算になっている(図2)。

図2●経済産業省が試算したIT機器の消費電力量
図2●経済産業省が試算したIT機器の消費電力量
2025年には2006年の約5倍に相当する2400億kWhになると試算。ネットワーク機器の消費電力量は13倍に膨れ上がると見られる。

 日立製作所経営戦略室事業戦略本部の香田克也プラットフォーム戦略担当本部長兼HC(Harmonious Computing)統括部長は「ネットワーク機器の消費電力は今後も大きな伸びが予想される。ほかのIT機器以上に削減を迫られるだろう」と指摘する。ネットワーク機器には,NTTのNGN(次世代ネットワーク)をはじめとする通信事業者の機器が含まれるため,必ずしも一般企業の努力だけで大幅に省電力化できるとは限らない。それでも,フロアにいくつも設置するスイッチや無線LAN アクセス・ポイントまで合わせると,ネットワーク機器全体の消費電力の影響は小さくない。決して無視はできないはずだ。

 省電力化のためだけに既存のIT機器を置き換えることは,どの企業にとっても現実的とは言えない。ただサーバー,ネットワーク機器,クライアントPCのいずれも,消費電力は年々下がっている。

 サーバーやPCのメーカーは,省エネルギー法の「トップランナー基準」と呼ぶルールによって,製造する機器の消費電力の抑制を求められている。現行の市販製品のうち最も高い水準に合わせて定められた目標値を,期限までに達成しなければならない。つまりユーザー企業にとっては,リース切れなどのタイミングに合わせてIT機器を置き換えていけば,必然的に消費電力は減ることになる。

 サーバー製品を見ると,実際に消費電力は下がり続けている。最近のサーバーは,1チップに複数のプロセッサ・コアを埋め込んだマルチコアCPUを搭載した機種が増えている。このマルチコアCPUにより,同じ性能を得るためのコア当たりの消費電力は格段に改善された。

 NECが2008年度中に発売を予定する「ECO CENTER」(開発コード名)は,500台の論理サーバーを一つのラックに集約した製品である。高効率電源や半導体ディスクを採用するなどして,消費電力を18kWに抑えた。

 ECO CENTERと同じ500コアを,デュアルコアCPUを搭載した従来型サーバーで実現すると,消費電力は45kW程度になる。ECO CENTERは約60%の電力を削減できる計算だ。こうした機器を導入した上でサーバー集約を進めていけば,サーバー群全体の消費電力をさらに下げられる。

ネットワーク機器の電力も膨れ上がる

 もちろん,ネットワーク機器の省電力化も進んでいる。今夏にも小型ルーターやLANスイッチに省エネ法のトップランナー基準が適用されることが決まっており,製品の置き換えによる省電力化を期待できる(本誌p.25のリポートを参照)。

 例えばNTTのNGNに採用されたシスコのエッジ・ルーター「Cisco ASR 1000シリーズ」は,ポート当たりの消費電力が約14W。これまで同社のエッジ・ルーターの主流だった「Cisco 7301」に比べ,ポート当たりの消費電力を46%下げた。シスコによれば,ASR 1000シリーズの収容ポート数と処理能力はCisco 7300数台以上に相当する。従来よりも少ない数のルーターでネットワークを構築すれば,消費電力はぐっと低くなる。

 企業内のフロアなどに設置するLANスイッチの場合,消費電力はインタフェースの種類やポート数によって異なる。8ポートのボックス型ギガビット・イーサネットなら15W前後,24ポートのギガビット・イーサネット・スイッチなら50W前後。ポート当たりの消費電力にすると2W前後である。最近は消費電力の低下により,ファンレスのスイッチ製品も登場している。

 こうしたボックス型のスイッチは元々消費電力が少ないだけに,改善が進んでも装置としては数Wしか下がらない。サーバーや大型のネットワーク機器に比べればインパクトが小さく見える。ただ,LANを構成する場合,ユーザー数に見合う数のエッジ・スイッチと,それをつなぐコア・スイッチが必要になる。これがフロア単位,拠点単位にあるため,トータルの消費電力量は膨れ上がる。

 さらに無線LANアクセス・ポイント,サーバー負荷分散装置,セキュリティ・ゲートウエイなどの消費電力を考え合わせると,省電力型の機器への置き換えによる効果は決して小さくない。1台にファイアウォールやIPsecによるVPNなどの機能を集約することによって,その分の節約も期待できる。