嘉悦大学は2007年9月、システム基盤を刷新した。1年目はネットワークを改善。2年目はオープンソース・ソフトを使い、ソフトウエア購入費 “0円”でITインフラを再構築した。ベンダー依存の中でブラックボックスと化した既存インフラの二の舞を避けるため、オープンソースの採用を決めた。

 「オープンソースを使い刷新したことで、システムの仕組みを学ぶことができた。何が問題で、どうすればいいのかが分かるようになったのは大きな収穫だ」――。情報基盤刷新プロジェクトを担当した、嘉悦大学情報メディアセンターの田尻慎太郎 副センター長はこう語る。

 嘉悦大学は、4年制の経営経済学部と2年制の短期大学部を持ち、約1400人の学生が通う。07年9月1日からの3日間、東京都小平市のキャンパスで、大規模な情報基盤の刷新を実施した。これまで同大学を支えてきた認証基盤やメール・サーバー、Webサーバー、ファイル・サーバー、検索システムIT基盤の大半を、オープンソースを使って一から作り直したのだ(図1)。利用者も教職員から学生にまで至る。

図1●嘉悦大学の構内システム構築のためのコンセプト
図1●嘉悦大学の構内システム構築のためのコンセプト
受動的な基盤づくりから能動的な姿勢に転身し学生と向き合った基盤づくりを目指す
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 基盤はデルのIAサーバー「PowerEdge 2950」9台で構成。OSは従来採用していたWindows 2000から無償のLinuxであるCentOSへ移行した。Windows Active Directoryで管理していた従来環境をOpenLDAPに移行させた。ファイル・サーバーもSambaを採用し、実質的にソフト購入費“0円”で刷新した(図2)。

図2●嘉悦大学の情報基盤と刷新した範囲
図2●嘉悦大学の情報基盤と刷新した範囲
サーバーやシステムを自分たちで把握するために、あえてオープンソースで構築することを選択。Webサーバーとデータベースをパッケージで購入した図書館システムなど、移行できないもの以外についてはすべて刷新した
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 大学側では、大学構内のパソコン環境やネットワーク環境などの管理を担当する情報メディアセンターの職員4人が刷新プロジェクトを担当。ITベンダーのオープンソース・ソリューション・テクノロジが実作業を手掛けた。先行して実施したネットワーク刷新などを合わせると、構築費は数千万円規模に上るという。

 田尻副センター長は「アプリケーションはそのままで、運用コストを以前の3分の2程度に削減できた」と話す。

自分たちで“調べる”から着手

 基盤刷新の発端は06年6月に着手した大学構内のネットワーク刷新である。このときの嘉悦大学の状況は「ネットワーク構成図やシステム図がなく、システム管理者もいない。ITベンダー任せで、すべてがブラックボックス化していた。ITベンダーが文教事業から撤退してしまった結果、ネットワークを改善しようにも何をしたらよいのか分からなかった」(田尻副センター長)という状況だった。

 途方に暮れた田尻副センター長は、さまざまなつてを頼り、他大学の関係者にIT化の実情についてヒアリングを重ねた。そこで得た結論が「自分たちのことは自分たちでやる」だった。

 当たり前のことだが、ITの現状をしっかりと理解していれば、問題が起こったときに改善策を自分で考え出すことができるようになる(図3)。ITベンダー任せの状況を根本的に変えることを決めたのである。

図3●構内システムに対する職員の意識改革
図3●構内システムに対する職員の意識改革
以前は、教職員や学生の不満や要望をそのままベンダーに伝え、改善案やシステム構築のすべてを任せていた。そのため、構内のネットワークやサーバーがブラックボックス化した。刷新後は情報メディアセンターの職員が構内のシステムを把握し、ベンダーと協力して運営できるようにした

 情報メディアセンターのメンバーが構内のネットワークを一から調べ、3カ月ほどをかけ、独自のネットワーク構成図を完成させた。「考えるだけでは答えは見つからない。ときには懐中電灯を手に、地下溝に降りたり、天井裏をのぞいたりした」(情報メディアセンターの佐藤雄一氏)という(写真1)。

写真1●大学構内のネットワークを調査
写真1●大学構内のネットワークを調査
情報メディアセンターの職員自らネットワークの現実を見極めるため徹底的に調査。時には地下溝に降り、どのケーブルがどこにつながっているかを調査した

 こういった作業の後、07年3月にネットワークを刷新。老朽化したスイッチや、学生が使う無線LANのアクセスポイントなどのネットワーク機器を買い替えた。