靴の専門店をチェーン展開するワシントン靴店は、基幹システムを刷新した。構築費用と期間を抑えるため、パッケージをノンカスタマイズで導入することを前提に、製品選定を徹底。そのために、再リースで旧システムを延命するなどしてきたが、稼働後は現場への着実に浸透し、販売状況を即日把握できるなどの効果を上げ始めている。

 ワシントン靴店(以下、ワシントン)は2007年10月10日、「Washington」「WASH」など複数ある業態のそれぞれにポイント・カードを導入する。購入金額に応じてポイントを付与しながら、顧客の購買履歴を管理する仕組みだ。最近では多くの小売店がポイント・カードを導入しており目新しさはそれほどない。

 しかし、ワシントンにとっては、07年3月に新基幹システムが稼働したことで可能になった“攻めの一手”である。同社の板倉博システム室長は、「稼働から半年が過ぎ、新システムを使いこなすフェーズに入ってきた」と話す。

8年間、手付かずだった前システム

 ワシントンにとっての基幹システムは、商品情報を管理するMD(商品政策)システムと、店頭の売り上げを管理するPOS(販売時点情報管理)システムの 2つだ。首都圏と関西地方を中心に展開する約40店舗の売り上げを集計、その結果から売れ筋を見つけだし、店頭での品ぞろえなどを決めていく。

 新基幹システムは、松山電子計算センター製の業務パッケージ「現場主義」と、大興電子通信製の業種パッケージ「RetailFocus-L」を組み合わせたもの。業務パッケージの現場主義には徹底してカスタマイズを排することで、実質的な構築期間8カ月、システム構築費用1億円強で、基幹システムの全面刷新を終えることができた。SI(システム・インテグレーション)は大興電子が担当した(図1)。

図1●ワシントン靴店の新基幹システムの構成
図1●ワシントン靴店の新基幹システムの構成
MD(商品政策)システムから、POS(販売時点情報)システムまでを一気に入れ替えた
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 ワシントンの旧基幹システムは、1999年に構築したもの。MDを本格的に展開するため、日本NCR製の業種パッケージ「ESCORT」を導入したのだ。ESCORTは、その運用を日本NCRが代行するサービス型の商品で、全店舗のPOSデータを日本NCRのセンターが収集し、集計・分析結果をワシントンに提供する仕組みである。

 当初は、それまでメインフレーム上で自社開発してきたMDシステムをESCORTに完全移行する計画だった。だが、旧システムに慣れた現場の担当者らが、「ESCORTによるMDシステムに移行し切れなかった」(板倉室長)。加えて、ワシントンは、受発注用途などで別のVAN(付加価値通信網)を利用しており、「ネットワークの切り替えもうまくいかなかった」(同)。つまり、99年以降は、メインフレームとES-CORTとの2重運用が続いていたことになる。

ノンカスタマイズに徹底してこだわる

 こうした状況を打開するため、ワシントンは05年から、システム刷新の検討に着手する。当時、同社の経営状況は芳しくなかった。システム費用の削減はもとより、システム室の人数も徐々に減っていく。そのため、「いよいよメインフレームを運用し続けることが限界に近付いてきた。76年の初導入以来、改良を続けてきたアプリケーション資産の保守も難しくなってきた」(板倉室長)という。

 にもかかわらず、基幹システム刷新プロジェクトが正式にスタートするのは06年5月。富士通製メインフレーム「GX8300」は2度、再リースしており、富士通の営業担当者からは、「故障しても、もう部品がありません」とも言われていた。板倉室長は、「リース期限を延長するたびに、刷新案の作成を検討した」ともいう。

 厳しい状況下でも、刷新に踏み切れなかった理由は、大きく2つある。1つは、「費用を抑えながら、短期間でシステムを刷新するには、パッケージのノンカスタマイズ導入しかない」(板倉室長)と考えていたこと。もう1つは、「ノンカスタマイズを徹底するためには、現場に負担をかけないように、当社業務に十分にフィットした製品が必要」(同)という考えである。

 特に譲れない要件があった。靴のサイズの表示方向だ(図2)。

図2●パッケージ選択の決め手になった靴のサイズ表示の方向
図2●パッケージ選択の決め手になった靴のサイズ表示の方向
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 靴のサイズは一般に0.5cm刻みで、1つの商品に10以上のサイズがあるという。板倉室長によれば、「店頭で求められるのは、在庫の返答や素早い精算など、とにかくスピード」。それだけに、在庫確認や発注といった場面では、対象になる商品の在庫量・販売量などが画面で一覧できる必要がある。

 ところが、同業態に分類されるアパレル業界でも、洋服のサイズは「S」「M」「L」など3~5段階の区分が一般的。そのため、インテグレータなどから提案される業種パッケージのほとんどが、サイズを縦方向にしか表示できなかった。横長のパソコン画面では、区分が細かいサイズの靴の在庫などを1画面で表示し切れない。

 これほどまで、サイズの横表示にこだわった背景には、ワシントンの苦い経験がある。99年に構築したES-CROTが利用されなかった一因が、サイズの縦方向表示にあったのだ。