映像データを配信するための帯域を確保する方法としては,VOD型とリニアTV型で大きく異なる。

 VOD型の場合,配信サーバーと受信端末がエンド・ツー・エンドで1対1通信を行うユニキャストを使う。これはIP電話と同じ方式のため,IP電話に使われるSIPをそのまま利用できる。

 具体的なQoS制御の流れは次のようになる(図1)。まず,端末側からの要求で,端末と配信サーバーの間に「RTSP」と呼ぶプロトコルのセッションを確立する(図1の(1))。このRTSPは,「RTP」と呼ぶプロトコル(後述)で運ばれる映像データを制御するための情報をやり取りする。具体的には,再生,早送り,巻き戻しといった制御を可能にしている。

図1●VOD型サービスでの帯域確保のしくみ
図1●VOD型サービスでの帯域確保のしくみ
公表された資料や標準規格,取材で得た情報などに基づいて本誌が推定した。VOD型サービスではエンド・ツー・エンドで1対1通信を行うユニキャストなので,IP電話と同様のしくみでSIPをベースとした帯域確保のしくみを利用する。
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 NGNは,RTSPのセッションを確立すると同時に,そのセッションに必要な帯域を確保する(同(2))。この処理は,CSCFサーバー,RACFサーバー,そしてエッジ・ルーターの連携によって実施される。これは,NGN上のIP電話と同じやり方である。

 続いて,NGNは映像データを配信サーバーから端末に届けるためのRTPのセッションを確立する(同(3))。そしてRTSPのときと同様,CSCF サーバー,RACFサーバー,エッジ・ルーターが連係し,RTPのセッションに必要な帯域を確保(同(4))。この後で映像データの配信をスタートする(同(5))。

 映像データに必要な帯域は,NGNのIPTVで採用されている「H.264」というエンコード方式の場合,SD画質で約5Mビット/秒,HD画質で約10Mビット/秒と言われている。

帯域確保が難しいマルチキャスト

 リニアTVの場合,VOD型に比べてSIPを使った帯域確保が難しくなる。それは,配信サーバーと受信端末が「1対多」の関係になるマルチキャストという方法で映像データを届けているからだ。

 マルチキャストは,配信サーバーが送り出した1個のIPパケットを途中のルーターが必要に応じてコピーし,多数の端末まで届ける仕組みである。配信サーバーに負荷をかけずに多数の端末に同時にデータを届けられるため,放送型のIPTVに適した方式と言える。その一方,配信サーバーと端末が1対1に対応しないため,エンド・ツー・エンドのセッションを確立できない。こうした理由から,セッション単位でQoSを管理するやり方が使えないのだ。

 IPTVの国際標準でも,マルチキャストでのQoS制御の方式はいくつか提案があり,まだまとまっていない。ただ,あらかじめ帯域割り当てのルールを決めておき,端末がマルチキャストを要求した時点でエッジ・ルーターがルールを適用するという方法が有力である。

FECを使って映像品質を維持

 実際に映像データを配信する部分でも,IPTVでは様々な工夫が施されている。IP同時再送信を例に,そうした工夫を見てみよう。

 まず,配信事業者は地上デジタル放送を受信し,復号してMPEG-2形式の映像データを取り出す。そして,圧縮率の高いH.264形式に変換する。こうすることで,同じ品質の映像を少ない帯域で伝送できるようになる(図2)。

図2●FECを使って映像の品質を維持
図2●FECを使って映像の品質を維持
地上デジタル放送のIP同時再送信で映像データを配信する仕組みを示した。映像信号は,地上デジタル放送と同じ「TSパケット」という単位に格納する。ただし,配信前に圧縮率の高いH.264に変換している。映像の品質の維持には,「FEC」と呼ぶ冗長化技術を利用している。
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 H.264形式の映像データは,地上デジタル放送と同じ「TSパケット」という単位にまとめられる。複数のTSパケットは,RTPパケットに格納し,さらにIPヘッダーを付けてIPパケットにし,NGNに送り出す。

 この際,映像データが実際につまっているRTPパケットのほかに,「FECパケット」と呼ばれるパケットも送り出す。これは,RTPパケットが配信途中で失われても受信側で復元するための冗長データを格納するパケットである。NGN向けIPTVのFECには,主に「ProMPEG」と呼ばれる方式が使われている。