◆今回の注目NEWS◆

◎「IT政策ロードマップ」中間報告(IT戦略本部、4月22日)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai45/45siryou3_2.pdf

【ニュースの概要】政府(IT戦略本部)は4月22日、「IT政策ロードマップ」中間報告を公表した。(1)国民本位のワンストップ電子行政、医療・社会保障サービスの実現、(2)IT を安心して活用でき、環境に先進的な社会の実現、(3)「つながり力」発揮による経済成長の実現の3つを強化分野として定めている。


◆このNEWSのツボ◆

 国のIT政策に関する新しい指針として「IT政策ロードマップ」の中間報告がまとめられた。国のIT戦略は、2000年11月に策定され、2005年までをカバーするIT基本戦略(e-Japan戦略の基本となったもの)、2006年1月に公表され、2010年を目標年度とするIT新改革戦略といった、中期的な政策方針が、その礎をなす。

 これらの「戦略」は、そのカバーする期間が長いため、網羅的、抽象的にならざるを得ない面も持っている。このため、これを補うために、「年毎の重点計画」や「政策パッケージ」といった形で、より細部に渡って具体化され、毎年の法整備や予算策定の基礎となっている。

 今回のロードマップは、こうした各年毎の政策の具体的な指針を示すというよりも、「IT新改革戦略」の進捗状況を評価し、国民生活者の視点と新しい政府の成長戦略を進めるために付加した補足的な政策指針としての性格である。これに基づいて、より具体的な政策方針は、「重点計画-2008」として、今夏までに作成されることになっている。

 さて、このロードマップの中身であるが、「国民本位の電子行政・医療・社会保障サービスの実現」「ITを安心して利用できる社会の実現」「ITの実現するつながり力の発揮による経済成長の実現」が三つの基本的な考え方となっている。

 これら三つの柱は、年金記録に関するデータの混乱に対する反省、あるいは批判、児童が巻き込まれたネット関連犯罪の増加といった社会的背景を反映していると考えられ、その内容は、電子行政ワンストップ化の徹底、IT活用による環境への貢献など、もっともなものが多い。その限りにおいて政策の目指す方向自体は妥当なものと考えられるが、問題は、スピード感と過去の政策へのこだわりではないかと考えられる。

改革のスピードを削ぎかねない住基カードへのこだわり

 民間での技術利用と改革のスピードは速い。今や飛行機も新幹線も携帯電話をフル活用すれば、予約だけでなく搭乗・乗車手続きもノンストップで窓口や発券を行うことなく可能である。忘れていた母の日や父の日・家族の誕生日を思い出し、前日に出先から手配しても、期日に間に合うようにプレゼントを贈ることも可能である。「生き残る」ために必須・迅速な技術利用競争が行われている。逆に言えば、受け入れられない、問題のある技術やサービスは数年のうちに淘汰されてしまう。

 だが、このロードマップには、まだ「過去の政策の正当性」にこだわり、「未来の政策」も誤らせる要素がある……そんな懸念の種が含まれているのではないか?

 例えば、住民基本台帳カードの発行率(利用率ではない)が、依然として1.5%に留まっていることを反省しながら、他方で、ワンストップ行政サービスの基盤として、住基カードを位置付けようとしているようにも思われる。確かに、長い期間と執念をもって続けていけば、いつの日にか住基カードが社会のIT基盤になる日が来るかもしれない。しかしその間に費やされる時間と労力は、全て「コスト」である。色々なシステムに膨大な回収費用がかかる可能性もある。果たしてこれが正しい選択なのであろうか? 結果としてスピード感のある改革が実行できなかった…ということになりはしないか。

 筆者も官僚出身であるから、行政が「誤り」を認めることには様々な抵抗があり、コストがかかることは知っている。しかし、誤りを認めず継続することがより大きなコストと負担を発生させることもある。その意味で、このロードマップには過去のIT行政についての反省の言葉はあるのだが、「反省に基づく真摯な見直し」が、少し欠けているのではないかと懸念される。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。