IPTVは,IPパケットでデータをやり取りするIP通信の一種である。ただし,「TV」という映像系の通信アプリケーションは,Webや電子メールといった一般の通信アプリケーションと性質を異にする。

 IPTVには,(a)リアルタイム性が要求され,帯域や遅延が品質に大きく影響する,(b)大容量データを多くのユーザーに届ける必要がある,(c)コンテンツの著作権保護の仕組みが要求される──といった特徴がある。これらの特徴のうち,特に(a)は,ベストエフォート型で帯域や遅延を保証しないインターネットよりも,NGNの方が向いている。

 その一方で,(b)や(c)については,IPTV向けの仕組みを実装する必要がある。実際に,NGNにはそういった仕組みが備わっている。

 NGNでIPTVを利用する手順,すなわち,端末の電源を入れてから映像を視聴するまでの手順は,(1)NGNへの接続,(2)番組の選択とDRM処理,(3)セッション制御,(4)映像データの配信──の4種類になる(図1)。

図1●NGN映像配信を構成する要素と通信手順
図1●NGN映像配信を構成する要素と通信手順
公表された資料や標準規格,取材で得た情報などに基づいて本誌が推定した。(1)と(3)は,NGNならではの機能である。(2)は,映像配信サービスに必要な機能だが,NGNではIPネットワークに合わせて実装してある。なお,ONUなどは省略した。
[画像のクリックで拡大表示]

 これらの(1)~(4)の手順が滞りなく進むことで,初めてIPTVで映像を視聴できる。

配信事業者とNGNのインフラ構成

 こうしたIPTVの通信手順を実現するインフラがどのようになっているのかを見ていこう。

 「サービス編」で触れた通り,ユーザー宅内にはテレビ(受像機),STB,HGWがある。

 NTTぷららなどの配信事業者は,役割に応じたいくつかの種類のサーバーを設置している。特に重要なものは,番組表のデータなどをユーザーに配布する「ポータル・サーバー」,著作権保護の機能を提供する「DRMサーバー」,映像データを配信する「配信サーバー」の三つが挙げられる。

 そして,ユーザー宅と配信事業者の施設の間でデータをやり取りする役割を果たすのがNGNである。NGNは,IPパケットを転送するルーターと,サービス制御を受け持つサーバーから構成されている。

 ルーターは,NGNのバックボーンを構成する「コア・ルーター」とNGNのエッジに置かれる「エッジ・ルーター」の2種類がある。コア・ルーターは,大容量のトラフィックをさばくのに特化したルーターで,インターネット接続事業者(ISP)のバックボーンを構成するものとほぼ同じ仕様になっている。一方のエッジ・ルーターは,セッションごとに帯域を動的に割り当てる機能を備え,NGNに特徴的な装置である。

 また,サービス制御を司るサーバーとしては,主にセッション制御を受け持つ「CSCFサーバー」,帯域割り当ての指示をエッジ・ルーターに出す「RACFサーバー」,回線認証とアドレス配布を受け持つ「NACFサーバー」の三つが活躍する。

 (1)の処理は,NGNの上で動作するすべての通信アプリケーションに共通するもので,今回は詳しく触れない。どのようにして(2)~(4)の手順が実現されているかを順に追っていく。