総務省の「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」は2008年5月20日に,焦点になっていたVHF帯のハイバンドを利用する全国向け放送の技術方式を1本化しない考えを示した報告書案をまとめた。同時に2009年に予定する事業者認定で,比較審査を行う方針を打ち出した。つまり,技術方式が1本化されるかどうかは,この審査結果で決まる。

 比較審査は,全国向け周波数の割り当て方針として示された考え方で,移動体系電気通信事業業務で導入されている認定計画制度を参考にするという。同制度による比較審査で記憶に新しいのは,「モバイルWiMAX」や「次世代PHS」の事業者を決めた2.5GHz帯を利用するBWA(Broadband Wireless Access)の認定である。このときも,複数の技術方式の中から事業者が技術方式を選択した。総務省は,基地局の配置計画やその実現性などを審査し,結果的に複数方式となった。この手法を放送に応用する。

 放送では一般的に,総務省が放送普及基本計画や放送用周波数使用計画(チャンネルプラン)を作成し,事業者はそれに基づいてインフラを整備する。しかし全国で同じ周波数を利用する今回のマルチメディア放送では,置局は事業者の創意工夫に委ね,置局計画の内容などを審査するという考え方である。

 ただし,通信と異なり放送は,コンテンツと一体のサービスである。今回の懇談会の報告書案では,比較審査の内容がサービス内容に及ぶことを示唆している。例えば,無料放送の割合は原則として事業者に委ねることになっているが,ほとんど有料放送の場合には,普及・発展が阻害される恐れがあることを理由に,「事業者選定の際に一定程度の無料放送を確保するものを優遇するなど仕組みが必要」との考えが示されている。

 報告書案に基づくと,マルチメディア放送の技術方式の審議は,情報通信審議会で2008年中に始まる。国内規格の要求条件として5項目が示されているが,「ISDB-Tファミリー」や「MediaFLO」は,ほぼ確実に国内規格になるだろう。むしろ注目すべきは,技術方式も比較審査の項目とする考えが示されていることである。しかも参考という形ではあるが,審査項目の内容として,ロイヤルティーや端末へのコストインパクト,さらにはVHF帯ローバンドの技術方式との整合性──などが挙がっている。例えばVHF帯ローバンドは,ブロック別デジタルラジオ放送に割り当てられることになっており,技術方式はほぼ「ISDB-Tsb」で決まりである。つまり,ISDB-Tsbとの整合性が,審査項目になる可能性を示唆している。実際には,この項目だけで事業者が決まるわけではない。しかしMediaFLO陣営にとっては,障壁の一つになる可能性はある。

 このためMediaFLOを推進する陣営からは報告書案に対する意見として,このような比較審査の項目を取り消すこと求める声が挙がることが予想される。これに対して,懇談会がどのような考え方を示すかが,次の大きな焦点になりそうだ。