プロジェクト・マネージャ(PM)が進捗管理で事実を的確に把握できるかどうかは,各工程の進捗度をいかに正しく把握できるかにかかっている。そのためには,進捗をどう測るかの基準をあらかじめ定義しておく必要がある。メンバーには,定義した進捗基準に基づいて,進捗度を報告できるよう徹底することが大事である。進捗基準が不明確なままスタートしてはいけない。

 進捗管理の目的は,プロジェクトが遅れないようにすることである。計画通りに進捗しているかどうかは,計画と実績の進捗率を見て判断する。進捗基準が不明確であれば,プロジェクトの遅れを遅れと認識できず,実態を把握できなくなってしまう。定量的な把握を怠っていると,「順調に進捗しています」などと会議で報告されても,本当に順調なのか分からない。

 定量的な把握とは,例えば「作成完了ページ数/作成予定ページ数」といったものである(図1)。注意しなければいけないことは,人によって書き方が異なるということである。担当者任せにしていると,1ページ当たりの文字数などの記載密度も異なる。PM自身がプロジェクトの特性や規模に応じて「どのような管理指標でプロジェクトの実態が把握できるか」を考え,進捗基準を定義しなければならないのだ。遅れは「計画と実績の差異」として表れる。計画や実績の進捗基準の定義があいまいであるほど,問題の発見を遅らせる。

図1●定量的な進捗指標の例
図1●定量的な進捗指標の例

 進捗基準と同様に,完了基準も明確に定義をしておきたい。「XX仕様書の作成完了」といっても「作り終えた段階」「誤字・脱字をチェックした段階」「レビューが終わった段階」「レビューの指摘を反映した段階」「検査に合格した段階」と様々である。あらかじめどういう段階(状態)であれば進捗率が何%であると定義しておくとよい。

 例えば,一通り作り終えた段階であれば80%,レビュー完了で85%,レビューの指摘修正完了で90%,検査合格でその工程完了の100%というようにである。このように,イベント(状況)と進捗を対応させることで「XX仕様書」の進捗状況と完了条件(100%)を明確に定義しておくのだ。

 しかし,いくら計画時点でページ数やコーディング行数などの定量的な進捗基準を定義しても,質(品質)まで含んだ進捗基準でないということも,PMは理解しておかなければならない。品質を評価できるように,ドキュメント作成工程であれば,レビューや検査などのイベントを計画に組み込みたい。さらに,有識者を入れたレビューの実施や第三者による検査を実施すると,品質の客観的評価が可能になる。

 また,テスト工程であれば,チェックリストの消化件数(予実績)と不良摘出件数(予実績)を同一帳票に表した「テスト工程管理図」(図2)などを作成し,進捗と品質の両面から状況を「見える化」し,事実把握に努める。例えば,「チェックリスト消化実績は予定通り,不良摘出実績も予定通りで特に問題なし」と報告があった場合は,目標値やチェックリストの妥当性を途中段階で再度検証し,事実であるかを確認する。

図2●テスト工程管理図の例
図2●テスト工程管理図の例

 以上のように,第三者の客観的評価やプロジェクト状況の「見える化」を推進することで,プロジェクトの実態が把握できるようになる。PMは進捗の基準を定義し,プロジェクトの実態を正しく把握する。正しく把握することで問題を早期に発見し,早期対策を図れるようになる。


千種 実(ちくさ みのる)
日立システムアンドサービス
プロジェクト推進部 部長
1985年,日立中部ソフトウェア(現 日立システムアンドサービス)に入社。入社以来,一貫してプロジェクト管理に従事。PMOの立場でトラブル・プロジェクト支援を数多く経験した後,社内のプロジェクト管理制度の構築やプロジェクト管理システム(PMS)開発およびプロジェクト支援,プロジェクト・マネージャ教育講師に携わる。また,他社のプロジェクト管理に関するコンサルティングや研修講師,講演などを経験し,現在もPMOの立場からITプロジェクトを成功へ導くために幅広く,社内外で活動中。1962年,三重県出身。岡山理科大学理学部応用物理学科卒。