スケジュールは,大日程計画表,中日程計画表,小日程計画表の3種類を組み合わせて作成することが多い。大日程計画表は,プロジェクト全体をどのように進めていくか(実行計画)を示した総合スケジュール表を指す。マスター・スケジュールとも呼ばれる。中日程計画表は,工程ごとの作業計画を示したスケジュール表であり,小日程計画表は,作業ごと,担当者ごとの作業計画を示したスケジュール表をいう。これらのスケジュール表を何度も書き換えてはいけない。

 ここでは,大日程計画表(マスター・スケジュール)について話を進める。マスター・スケジュールは,プロジェクト・マネージャ(PM)の作戦計画である。PMが自ら作成すべきであり,作成することでプロジェクトの全貌を把握するのに役立つ。スケジュールの作成は,パート図の考え方を取り入れ,プロジェクト全体を構成する各作業(WBS)の前後関係や相互依存関係が明確になるようにする。これによって,どのような手順で何をすべきかが明確になる。

 マスター・スケジュールは,プロジェクトの状況に応じて適時,実績を更新していく。だが,実際には更新を怠るケースをよく見かける。最初に詳細なスケジュールを作成しても,プロジェクトの進行に応じて定期的な実績更新を行わなくなり,スケジュールの信頼性がなくなる。そのため,各工程がいつ終わるのか,最終納期に間に合うのか,分からないまま作業を進めるはめに陥る。途中でそのような作業の進め方では駄目だと気づき,スケジュールを再作成するのである。

 定期的に実績更新をしているプロジェクトでも,遅れの作業項目が多くなってきたり,遅れが大きくなってくる(図1)と,スケジュール表が見づらくなったり,管理しづらくなったりして書き換えてしまう。スケジュールを書き換えるたびに,遅れていた作業が見えなくなってしまう(図2)。

図1●遅延が明らかになったスケジュール表の例
図1●遅延が明らかになったスケジュール表の例

図2●書き換えたスケジュール表の例。一見,オンスケジュールに見える
図2●書き換えたスケジュール表の例。一見,オンスケジュールに見える

実態把握は思うより難しい

 進捗管理の目的は,最終納期に遅れないようすることである。途中でつじつまを合わせようとすることは本質的な問題解決とならない(図2)。むしろ,計画と実績の差異を明確にすることが進捗管理の主眼である。遅れを遅れと正しく認識し,実態をきちんと把握することがプロジェクト・マネジメントの基本である。

 ところが,実態把握(Fact Finding)は,それほど簡単なものではない。「事実だと思っていたことが,実は事実でなかった」と言うPMも数多くみてきた。PMは,常に実態把握ができているか自問自答し,多角的にプロジェクトを見てマネジメントしなければならない。そのためには「スケジュール表は極力書き直さない」ことである。

 図1のスケジュール表は,フォロー線(▼)で実績更新することで,計画に対して遅れが一目で分かるようにしてある。また,定期的(1回/週,1回/月)にフォローすることで,前週や前月の間隔と比較し,遅れが改善傾向にあるのか,拡大傾向にあるのかが読み取れる。

 PMがマネジメントをする上でもう一つ重要なことは,この先プロジェクトがどうなるかという未来に対する予測である。納期どおりに完了(納入)できるのか,できないのか。これから先どう進めていくかが分からなければ,ステークホルダーは不安になる。そういう不安を解消するのもPMの仕事である。

 不安を解消するための工夫として,マスター・スケジュールで各作業工程の完了実績や見通し日程は,図3のように矢印を付け日付を記載するという方法がある。こうすることで,当初計画との差異や完了見通しが明確になる。そして,日程再設定を何回繰り返しているのか一目で分かる。また,どの工程で日程の回復(短縮)をするのか,当初計画に対して,何日短縮しようとしているのか,マスター・スケジュールから読み取れるようになる。

図3●マスター・スケジュールで作業工程の完了実績や見通し日程を記載する例
図3●マスター・スケジュールで作業工程の完了実績や見通し日程を記載する例
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 このように工夫すれば,マスター・スケジュールを書き換えなくても,進捗管理やマネジメントは可能になる。当初計画との差異,前回見通しとの差異から実態が見えてくる。もし,どうしても書き換えが必要な場合は,ステークホルダーに「日程の書き換え宣言」を行い,合意を得てから再設定日程のスケジュールを作成する。ただし,1回は許されても。2回,3回と繰り返せば,PMの信用や信頼は回数と共に無くなっていく。


千種 実(ちくさ みのる)
日立システムアンドサービス
プロジェクト推進部 部長
1985年,日立中部ソフトウェア(現 日立システムアンドサービス)に入社。入社以来,一貫してプロジェクト管理に従事。PMOの立場でトラブル・プロジェクト支援を数多く経験した後,社内のプロジェクト管理制度の構築やプロジェクト管理システム(PMS)開発およびプロジェクト支援,プロジェクト・マネージャ教育講師に携わる。また,他社のプロジェクト管理に関するコンサルティングや研修講師,講演などを経験し,現在もPMOの立場からITプロジェクトを成功へ導くために幅広く,社内外で活動中。1962年,三重県出身。岡山理科大学理学部応用物理学科卒。