NTTファシリティーズ
データセンター環境構築本部
長岡 朔太
矢頭 高広
平岡 真実

 地球温暖化への社会的関心の高まりから,サーバールームやデータセンターの熱対策,あるいは増大する電力消費量の抑制が,企業にとっての緊急課題となっている。これらに対処するには,ITとFacility(ファシリティ:施設・設備)それぞれの担当者が,互いの領域を越えて協力していく必要がある。本連載では,サーバールームやデータセンターを支える様々なファシリティの技術について解説する。

 連載第1回では,最近,データセンター(サーバールーム)で大きな問題になっている熱対策について取り上げる。熱に対処するには,冷却(空調)技術が必要である。ここではまず,「サーバールーム用空調機」に求められる性能と,選択のポイントについて,一般オフィス用空調機と比較しながら見ていく。

安定性,可用性,信頼性が求められる

 サーバールーム用空調機の冷却対象は,IT機器すなわち「常に発熱し続け,ファンを持つ装置」である。したがって,「安定して冷気を供給すること」が重要なポイントになる。以下,サーバールームに求められる性能について列記する。

1. 冷却性能
 オフィスでは室外からの流入熱や,人体,照明などから発生する熱をコントロールすればよいが,サーバールームではIT機器から発生する非常に高い熱をコントロールする必要がある。例えば,1ラックに5k~6kWの負荷があるブレード・サーバーなどのIT機器を搭載した場合,電気ストーブ5~6台分を使用しているのと同等の発熱になる。サーバールームには,高発熱の装置が高密度に設置されているため,それに応じた冷却性能を持つ空調機が必要になる。

2. 運転時間
 オフィス用空調機の運転時間は,人がいる時間帯に限定される。これに対し,サーバールームの空調機は,24時間365日(年間8760時間)連続運転が必要となるため,高い可用性が求められる。したがって,空調機を構成する部品の長寿命化も重要な要素である。

3. 運転制御
 オフィス用空調機は,夏と冬で冷暖房を切り替える。このため,空調機自体に冷暖房両方の機能が必要となる。一方,サーバールームの空調では,年間を通じて冷房だけである。外気温から受ける影響よりも,IT機器の発熱の方が大きいからである。

4. 熱処理
 人体から発する熱は「潜熱」と言われ,湿度を上昇させる。一方,IT機器が発する熱は「顕熱」と言われ,水蒸気の発生がないので湿度はあまり変化しない。オフィスの空調機は,潜熱の処理を必要とするため,除湿・加湿機能を備える。一方,サーバールームの空調機は,顕熱を対象としているため,除湿・加湿機能はそれほど重要ではない。

5. 送風量
 1時間あたりの換気回数を指標として,空調機に必要とされる送風量を表現すると,サーバールームは,換気回数50~300回/時間,オフィスは10~20回/時間となる。つまりサーバールーム用空調機には,オフィス用空調機に比べ,大容量の送風機が求められる。

6. 信頼性
 オフィス用空調機が夏場に故障した場合,人が不快になるだけだが,サーバールーム用空調機の場合は,IT機器が高温になり,故障するリスクが高まる。

 最近のサーバールームは,発熱密度が増加する傾向にあり,短時間の停電でもサーバールーム内では急激な温度上昇が起こる可能性が高い。このため,IT機器だけでなく,空調機についても,UPS(無停電電源装置)などにより,バックアップ電源の供給を検討する必要がある。

図1●サーバールーム用空調機とオフィス用空調機の違い
図1●サーバールーム用空調機とオフィス用空調機の違い
サーバールーム用では2重床からフリーアクセス方式で必要個所に重点的に冷気を吹き出す。オフィス用では天井からの吹き出し方式が多い
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