モバイルWiMAX事業を2009年に開始するUQコミュニケーションズは,放送類似型サービスであるマルチキャストの提供に向けた取り組みに力を入れている。MCBCS(Multicast Broadcast Service)と呼ぶ機能である。2008年4月に総務省に提出した「BWAサービスに向けた進捗状況報告」でも主要機能として位置付け,かなりの分量を割いてその準備動向を報告した。

 MCBCSは,現行の携帯電話サービスでも提供されている。例えばKDDI(au)の「EZニュースフラッシュ」で利用されている。もちろんモバイルWiMAXは伝送容量が大きいため,より表現力が豊かなコンテンツの配信が可能になる。加えて,現在の携帯電話サービスでは複数の基地局単位で提供する情報を制御していたのに対し,モバイルWiMAXでは各基地局のセクター単位で制御きるようになるという。UQは都市部においてはセル半径700m程度,郊外では同1.2km程度でエリアをカバーしていく。つまり,これだけ小さな単位のセクターごとに送出する情報の内容を制御できるようになる。

 UQはMCBCSの実現に向けて,番組表のようなものを用意して配信できるようなイメージを想定している。同社が用意するサーバーに送信したい情報を登録して時間や場所を指定すると,指定した時間に指定した対象エリアにいるユーザーに対して自動的に情報が配信される仕組みを提供する。コンテンツ提供側の立場に立つと,情報を伝える相手の場所と時間を細かく設定できることになり,より細かなセグメント化が可能となる。

 こうしたサービスで注目されるのは,新しい形態の広告市場の掘り起こしだろう。現在,地上波放送などのある程度の広域放送においては,広告市場の伸びが停滞している。一方で,より狭い地域を対象にしたフリーペーパーなどは市場を拡大している。MCBCSは,こうした地域を限定した広告市場の受け皿になる可能性があると期待できる。UQは,「モバイルWiMAXの分野においてMCBCSを育てたいと積極的に推進しているのは,世界的に見ても我々が先行している状況」といい,日本発のモバイルWiMAXの使い方となりそうだ。

 ただし逆に言えば,日本以外の地域での対応が遅れているだけに,それに合わせて標準化作業も遅れ気味になっている。UQなどは,コネクションを張るための情報をより上位のアプリケーション層から送る形を提案している。「WiMAXフォーラム」の標準規格に準拠した形でサービスを展開する予定のUQは,同フォーラムで始まっているMCBCSの標準化活動の加速化を促進するとともに,MCBCSの提供に向けてベストなシナリオを練っているという。