沢田 貢氏 東ハト 情報システム部部長
写真●沢田 貢氏 東ハト 情報システム部部長
(写真:田中 昌)
 

 ITベンダーの営業担当者には、リアリティのある提案を求める。新システムを導入することで業務がどう変わり、どのような効果をもたらすのか。新システムの導入に、どれぐらいの手間とコストがかかるのか。イメージがわくよう、具体的な話をしてほしい。

 だが現状は、“ベストプラクティス”と称して、個性のない中身の提案を出してくる営業担当者が多い。表紙のタイトルさえ差し替えれば、どのユーザー企業にも通用するのではないかと思えるプレゼンテーション資料は少なくない。このような提案を見せられても、困ってしまう。

 こんなことが3年前にあった。新たな生産管理システム構築のために、市販の業務パッケージの導入を検討した時のことだ。当時、ITベンダー10社にRFP(提案依頼書)を出したところ、現実味のある提案を作ってきたのは1社だけだった。

 そのITベンダーはプレゼンテーションで、生産管理システムのプロトタイプを開発してきた。利用部門の責任者にとって、実際に動くシステムを目の前で見ることほど、分かりやすい説明はない。そのITベンダーに対して、当社の選考メンバーの多くが高い点数をつけた。

 実はこのプレゼンテーションでは、ITベンダー1社当たりの持ち時間を3時間と決めていた。ところが、そのITベンダーのプレゼンテーションだけはおよそ6時間。選考メンバーからの質問が途切れず、切り上げることができない状況になっていたからだ。

 一方、競合他社のプレゼンテーションは、その逆。3時間の予定が2時間ほどで終わってしまう会社も多かった。いずれも提案内容が表面的で、当社の業務にまで踏み込んで考え抜いた形跡が見られない。選考メンバーは、現状の業務がどう変わるのかを理解しにくかったのだろう。提案内容に対する興味もうせて、質問もほとんど出なかった。

 評価されたITベンダーは、食品業界の動向や業務に詳しい会社だった。業務知識の豊富さが有利に働いたことは確かだろう。だが、それだけではないと思う。

 業務知識や経験が足りないのなら、そこは何かしらの方法で調査・研究すべきだろう。それができないというなら、食品業界に強みを持った他のITベンダーと協業するなど、さまざまな手を尽くして提案してもらいたい。

 業務知識やITスキルの豊富な人材を投入したり、他のITベンダーとパートナーシップを組んだりすることで、システム構築費用が増えることを懸念する ITベンダーもあるようだ。我々は、料金の安い高いだけでITベンダーを選ばない。ITベンダーに支払う費用は、プロジェクトの成功率を反映したものだと思っている。

 仮にエンジニアの人月単価が上がろうとも、プロジェクトの成功率が高まるのなら、値引き交渉などしない。上層部に対しても、「失敗するリスクを考えれば、逆に安上がりです」と説得するための材料にもなると考えている。

 厳しい意見に聞こえるかもしれないが、それだけITベンダーに期待しているということだ。当社は社名や製品名の認知度こそ高いが、事業規模で見れば年商200億円ほどの中堅企業。システムの担当者は、私を含めて4人しかいない。

 現行システムの運用だけで手一杯。新たなITスキルを蓄えていくゆとりがない。だからこそ、頼りになるITパートナーを求めており、厳しい目で見ているのだ。(談)