IT機器の消費電力を削減する手法のうち、最も取っ付きやすいのは省電力型の機種を導入すること。「グリーンIT対策のためだけに新機種に買い替えることはあり得ない」(NEC ITプラットフォーム販売推進本部の宮崎智美統括マネージャー)だろうが、機器の更新や追加導入の際は検討に値する。

 PCサーバーを例に取ると、ノートPC用などの省電力型プロセサを搭載した機種を、メーカー各社が製品化している。価格は通常のサーバーより数万円高いこともあるが、消費電力の削減分を考えるとほとんどの場合は2~3年で元が取れる。

 例えば、NECの省電力型PCサーバーの最大消費電力は108W。同じ価格帯の通常型サーバーの3分の1にすぎないため、電力コストだけで年3万円の削減が見込める(図3)。

図3●省電力型サーバーはスペースのコスト削減にも効果がある
図3●省電力型サーバーはスペースのコスト削減にも効果がある
ラック当たり60Aの電力が利用できる場合を想定。電気料金は1kWh当たり20円、ラック当たり月額利用料金を30万円とした。ラックへの搭載台数は、最大消費電力の9割を実効値として決めた
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 サーバーを専門事業者のデータセンターに設置する場合は、ラックの賃貸料も節約できる。省電力型サーバーを使うとラック単位で割り当てられている電力容量に余裕ができ、1ラックに収容可能なサーバー数を増やせるからだ。サーバー60台を使うとすると通常型は3ラック必要だが、省電力型なら1ラックに搭載可能になる。ラックの月額使用料は30万円程度なので、年720万円の節約だ。

 この規模のコスト削減が見込めるほど省電力型サーバーの投資対効果は高い。ユーザー企業によっては機器の更新時期を前倒しすることも俎上に載るだろう。

 サーバーを自社に設置する場合でも、発熱量が減る分の空調コストを節約できる。省電力型サーバーは多くのユーザー企業でコスト削減効果が見込めそうだ。

シンクライアントは要注意

 ただ、省電力型の機器なら何でもすぐにグリーンITによるコスト削減が期待できるかというと、それは違う。

 その代表はシンクライアント。ベンダー各社はPCサーバーと並んで低消費電力をアピールするが、冷静に試算してみると思わぬ落とし穴が見つかった。動作に必要なサーバー側の消費電力を含めると、全体では消費電力が増加するケースがあったのだ。

 セキュリティ強化や運用管理の効率化に威力を発揮するシンクライアントだが、グリーンITへの貢献は思ったほどは大きくない。

 NEC製品で試算すると、シンクライアントの消費電力は45Wでパソコンのほぼ半分(いずれも液晶モニターを含む)。40台を導入するケースで1日平均 8時間利用すると仮定すると、シンクライアントの年間の電力コストは10万5000円程度となり、パソコンに比べて12万円相当のグリーンIT効果が得られるはずだ(図4)。

図4●単にパソコンをシンクライアントに置き替えるだけでは、省電力効果はそれほど大きくない
図4●単にパソコンをシンクライアントに置き替えるだけでは、省電力効果はそれほど大きくない
シンクライアントのアクセスを常時受け付けるサーバー設備は24時間稼働になることが多く、その分消費電力が増える
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 ところが、サーバー側の設備を含めると試算の内容は大きく変わる。シンクライアントを束ねるサーバーは24時間稼働なので、その分の電気料金を加えると、全体の電力コストは年18万4500円程度となり、パソコンと比べて4万円しか節約にならない。

 シンクライアントは低価格化が進み、試算に使ったNEC製品ならパソコン並みの約5万円で購入できる。だが、これとは別にサーバーの購入費が20万円程度かかるため、計算上は5年以上使わないとトータルではコスト削減にならない。